蕾は、黒に包まれて目を覚ます
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貴族の子供が誘拐された――
サリバンからそう聞かされた時、内心ため息が漏れた。
「貧民街で目撃されたのが最後らしい。頼むよ、カルエゴくん」
面倒な仕事だと思ったが、断る理由もない。
それに、こんなくだらない事件は、さっさと片付けてしまうに限る。
「…こんな任務に付き合わされるとはな。だが仕方ない、早急に終わらせる」
俺は貧民街の薄暗い路地へと足を踏み入れた。
***
湿った空気と、錆びついた鉄の匂い。
歩くたびに靴の下で砕けるガラス片と小石の音が響く。
何人かに声をかけてみたが、みな一様に俺を睨みつけるか、すぐ目を逸らして逃げた。
情報屋に金を握らせても、「知らねえ」の一点張りだ。
(……どうやら空振りだったようだな)
一通り探し終え、そろそろ引き返そうと背を向けた――そのときだった。
僅かに、衣の裾が揺れる感触。重みが、ふっと軽くなった。
「――しまった…油断した!」
振り返ると、小柄な影が狭い路地をすばやく駆けていく。
俺の財布を手にしているのは、間違いなくそいつだ。
咄嗟に飛び出し、細い路地を全速力で追いかける。
(速いな…ただのスリではない。だが、撒けると思うなよ)
相手は瓦礫の山をすり抜け、迷路のような道を駆ける。
だが、俺の目は逃がさなかった。やがてその影は、廃墟となった教会の扉を押し開け、闇の中へと消えていく。
俺もすぐさまその扉を潜った。
***
教会の内部はひどく荒れていた。天井は崩れ、ステンドグラスも割れ、風が吹くたび軋む音がする。
だが、空気の揺れが教えてくれる――この中に、誰かがいる。
足音を忍ばせ、静かに奥へと進む。
そこで、俺は見つけた。
小さな少女が、怯えたようにこちらを見ている。
そのすぐそばに、俺の財布を盗んだ人物――痩せた体つきの少女が立っていた。
(……そうか。こいつが誘拐犯か)
俺は迷わず踏み込んだ。
「子供をこんな場所に連れ込むとはな。やはりお前が犯人か」
声と同時に間合いを詰め、攻撃を仕掛ける。
だが、少女は驚きながらも瞬時に反応し、懐からナイフを引き抜き反撃してきた。
その動きに、俺の眉がわずかに動く。
(ただのスリじゃない。……訓練を受けている?)
数合、鋭い刃が交差する。
だが、技術に穴がある。焦りからか、動きにブレが生じた。
その一瞬――
俺は彼女のナイフを叩き落とし、背後から腕を絡め取って地面に押しつけた。
「動くな。子供をどうするつもりだった?」
少女は睨みつけ、暴れようとするが、俺の拘束は緩まない。
その時、小さな声が震えながら響いた。
「ち、ちがう。その子は……助けてくれたの」
俺は少女を見下ろしながら言った。
「こいつは誘拐犯なのか?」
「ちがうの……わたし、逃げてたのを……見つけてくれて……」
(……なるほど。俺は、大きな勘違いをしたか)
少女に問いかける。
『お前、この子を攫った連中じゃないのか?』
「俺がそんな奴に見えるか? お前こそ、なぜこの子を匿う?」
少女は少しだけ沈黙し、目を伏せるようにして言った。
『……私のような子を増やさないため』
その言葉に、俺は目を細めた。
嘘を言っているようには見えない。瞳の奥に宿った光――それは、必死に何かを守ろうとする者のものだ。
「ふん、お前の言葉に嘘はないようだな」
拘束を解き、立ち上がる。そして、右手を差し出した。
「俺は教師だ。お前の可能性を信じ、正しい道へ導くのが俺の役目だ。……俺と共に来い。お前には未来がある」
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