蕾は少しずつ言葉を知る
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選挙当日。
バビルスの講堂には、ざわざわと緊張と興奮が入り混じる空気が渦巻いていた。生徒たちの期待と好奇心が一斉に視線となり、壇上を見つめている。
先に立ったのは、華やかな褐色の髪をなびかせた男――ロノウェ・ロミエール。
「諸君、聞いてくれ!僕から君たちに提案するのは――ズバリ、愉楽だ!!」
瞬間、照明がロノウェを照らす。背後には花火のような魔法演出、壇上を飾るバラの花、甘く響く声が空間を染める。
「学園を楽園に!ロノウェが目指すのは――遊園地!!
「つまらない」は最も無価値!日々を苦しみに沈めてはいけない!」
「さぁ、僕と共に、理想の楽園を目指そうじゃないか!!」
講堂が揺れるほどの歓声が巻き起こる。ロノウェコールがあちらこちらから飛び交い、生徒たちは花を投げ、手を叩き、ロノウェを称える熱気の渦に飲まれていた。
――そして、その熱狂の後。
次に登壇したのは、アメリ・アザゼル。
舞台の真ん中に立つ少女の姿は、どこか小さく、か弱く見えた。最初の一声は、まるで囁きのよう。
「……私は、弱いです」
その言葉に、ざわめきが広がる。
「周りの方々に助けてもらわねば、何も出来ない。
情けなくて、ふがいなくて……」
一瞬、空気が凍りついたように静まり返る。ロノウェのような派手さはなく、アメリの声は講堂の隅々にまで届かない。
しかし――彼女の目が、まっすぐに前を見据えた瞬間。
その声は、力強く、鮮やかに空気を切り裂いた。
「――でも、私を信じてくれる方がいた!」
「その方が信じてくれたのは、私の欲望です!」
生徒たちの目が、自然とアメリに集中する。
「なぜ、私が会長の席にこだわり続けたのか。それは、ここを最高の学校にしたいと、心から願ったから!」
「あなたたちは生徒である前に――悪魔なのです! 悪魔の本質は欲!!」
「与えられた愉楽に甘んじるな!欲望に誇りを持て!」
「あなたの欲望は何ですか?! それに今、手が届いていますか?」
「届かぬのなら! 手を伸ばす術を学びなさい!」
言葉が、叫びが、信念が――講堂を震わせる。
「バビルスは、野心ある悪魔を育てる場所であるべきなのです!!」
拳を握りしめ、力強く叫んだ最後の一言は、誰の胸にも深く突き刺さった。
「だからっ……! もしあなたたちが、自分の欲をその手につかみたいのなら!」
「黙って、私の野望についてこい!!」
――瞬間、嵐のような歓声が講堂を揺るがせた。
いつものアメリが、帰ってきたのだ。
ノアはその場に立ちながら、熱くなる胸を抑えていた。拳をぎゅっと握り、隣に立つ入間を見る。入間もまた、静かに目を見開き、頷いた。
そんな中、ノアの懐の携帯が震えた。
「……クララちゃん?」
『ノアち!つかまえたよっ!会長が変になった犯人っぽい子!アズアズと一緒に、生徒会室行っていい!?』
「……うん、今すぐに来て」
⸻
生徒会室のドアが開くと、クララとアスモデウスが一人の生徒を連れて来た
エリゴス・シネル。2年生。アメリの親衛隊長を務める
「おしとやかなアメリ様が……あまりにも……お美しくて……どうしても、あの姿を……記録に……!」
震えた声で語られるのは、まるで病的な執着。
「アメリ様が元に戻ってしまう前に……焼き付けたかったのです、この目に……!」
その狂気じみた言葉に、生徒会全員が顔をしかめる。
「……動機が、最低ですね」とノアが冷たく言い捨てた。
「つまみ出すぞ」とアスモデウスがため息をつきながら手を上げた瞬間、クララがポケットからお菓子を取り出し、シネルの口に詰め込んだ。
「はい、おしおき〜っ!」
⸻
事件が収束し、元の姿を取り戻したアメリは、生徒会にロノウェを加入させ
ロノウェは満面の笑顔で、花を撒きながら生徒会席に加わった。
そして、アメリは最後にこう締めくくった。
「また、魔具研究師団については――本日をもって、復活とする」
ノアは、隣に立つ入間達と静かに、でも嬉しさをかみしめるように微笑んだ。
再び始まるのだ。
自分たちの居場所が、もう一度。
講堂の熱気がまだ冷めやらぬ中、ノア達は魔具研究室の静かな一角で入間、クララ、アスモデウスと並んで座っていた。
「今回の件、本当にお疲れさま。みんなの力がなかったら、こんなに早く解決できなかったよね」
入間が微笑みながら話しかけてくる。
ノアは少し照れくさそうに頷いた。
「ありがとう。みんなのおかげだよ」
ふと、クララがニコニコとした顔で口を開いた。
「ねえ、ノアち。呼び方を変えようよ!」
目をぱちくりとさせた。
「呼び方……?」
クララは両手を頬に当てて、少し恥ずかしそうに言葉を続ける。
「そう。だって、ちゃんって呼んでくれるの!クララって呼んでっ!」
隣に座るアスモデウスもふっと笑い、
「そうだな、特別にアズと呼ぶのを許可してやる!」
ノアは驚きとともに、少し嬉しい気持ちがこみ上げてきた。
(こんなふうに呼んでくれるのって……あったかいな)
「じゃあ、これからはクララ、アズくんでいいんだね?」
ノアが少しだけ照れながらも確認すると、
3人は声を揃えて笑顔でうなずいた。
「うん!これでバッチリ!」
ふとした瞬間、ノアは自分の居場所をより深く感じていた。
過去の暗い影を越えて、今、ここにいる仲間たちと共に歩んでいく。
それはまだ始まったばかりの、新しい物語の幕開けだった。