光に導かれ蕾は色を変える
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「ノアちゃん、お泊まりセットよ」
夕暮れの学園の廊下に、優しい声が響いた。
振り返ると、リリィが腕いっぱいに荷物を抱えて立っていた。丁寧にたたまれたパジャマに、歯ブラシや小さな保温ポットまで入った心尽くしの準備。
ノアはその心遣いに胸がじんとした。
「ありがとう、リリィ。……うれしい」
「ふふ、楽しんできて。あまり夜更かしはしないのよ?」
頷いて魔具研究室へと向かう
夜の学園は、いつもと少し違って見えた。
部屋に着くと、既に布団が敷かれ、クララが全力ではしゃいでいた。
「パジャマパーティだー!」とぴょんぴょん跳ねる姿に、つい口元が緩む。
最初は戸惑っていたノアも、パジャマ姿で跳ね回るクララに釣られるように、ころころと笑い声をこぼしながら一緒にはしゃいでいた。
「……楽しいな」
ふと口をついて出たその言葉に、自分でも少し驚いた。
こんな風に誰かと笑い合って、夜を迎えるなんて――今までの自分にはなかった時間だ。
「ちょっと用事、すぐ戻るから!」
入間が何かを思い出したように部屋を飛び出していき、しばらくすると書物を抱えて戻ってきた。
「見つけた!花火の本!」
魔界に存在しない“花火”という文化に、みな興味津々。
入間の説明を受けながら、火薬を丸め、アスモデウスが細心の注意を払って炎を注ぐ。
ノアは作業の合間にも、何度も夜空を見上げた。空は広くて、星が少しずつ瞬き始めている。
実験の準備が整い、外に出る。
「では、火を……」
アスモデウスの合図で着火。
しんとした空気の中、玉が弾ける音が響く――
パァン!
広がったのは、色とりどりの光。夜空に咲く小さな花のようだった。
「……きれい……」
ノアの瞳が、花火の光を映して輝く。
「これなら目立つし、スペースもいらないし……!」
入間が満面の笑みで語る横で、クララはそのままぽてんと地面に座り込んで眠ってしまった。
「……寝てしもたんか」
キリヲが苦笑しながら肩をすくめる。
「今日はここまでにしとこか」
それぞれに荷物をまとめ、布団の敷かれた魔具研究室へ戻ろうとしたそのとき――
ノアは一度、研究室を外れて廊下の隅へと足を運んだ。
携帯を取り出し、リリィに電話をかける。
「リリィ……いま、大丈夫?」
『ええ、どうしたの?ノアちゃん』
リリィの声に、少し頬をゆるめた。
「花火……すごくきれいだった。
入間くんが本を持ってきて、みんなで作って……夜空に、大きな光が咲いたの」
『ふふ、それは素敵ね。ノアちゃん、楽しそう。』
「……うん。すごく楽しいよ。
だけど……少しだけ、寂しい」
『……そう』
沈黙が少しだけ流れたあと、リリィが優しく続けた。
『ノアちゃんが寂しいときは、心の中で呼んで。私はすぐには行けないけれど、ちゃんと聞こえるようにしておくから』
「……ありがとう。リリィがいてくれてよかった」
小さく深呼吸して、携帯を閉じた。
戻ろうとしたとき――廊下の奥にキリヲの姿が見えた。
「キリヲ先輩?」
声をかけると、彼は携帯で誰かと話している最中だった。
その表情はいつもの穏やかさではなく、不気味さを含んでいた。
(……なにか、違う?)
そう感じたときに、反射的に頭を下げていた。
「……ごめんなさい。お邪魔しました」
静かに部屋へと戻る。
***
【キリヲ視点】
「……おい、今の誰だ?」
携帯の向こうから響く低い怒声。
キリヲは無表情で答えた。
「新しく入った後輩です」
「……その声、聞き覚えがある。
そいつに探りを入れろ。出所とかな。……わかったな」
「了解、あにさん。例の装置もいつでも使えるようにしときますわ」
会話を終えたキリヲの目は、僅かに揺れていた。
⸻
【ノア視点】
布団に入ると、クララは寝息を立てており、アスモデウスは枕元で本を読んでいた。
入間はまだ資料に目を通しているが、徐々にまぶたが重たそうだ。
ノアは静かに目を閉じた。
(キリヲ先輩……あの声、どこかで……)
花火の光の余韻がまだ瞼の裏に残っている。
綺麗だった。楽しかった。けれど――
ほんの小さな違和感が、胸の奥に刺さっていた。