光に導かれ蕾は色を変える
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「師団披露……?」
朝、スープを口に運びながら、目の前で作業するリリィの話に耳を傾けていた。
「そう。毎年恒例の大きな行事よ。各師団が発表会や催し物を準備して、出店も出て、とても賑やかなの」
リリィは柔らかく微笑んで、付近をたたみ。
「そして、今年は一年生の保護者も見学に来るの。あなたのことを知ってる方も来るかもしれないわ」
ノアの手が止まった。
「……保護者」
その言葉に胸が少しだけざわついた。でも、すぐにリリィの次の言葉に救われる。
「私も、あなたの保護者として行くからね。ノアちゃんがどんな風に成長してるのか、ちゃんと見たいもの」
「……ほんとに?」
「ええ。だから、頑張って準備してみて?」
ノアは目を細め、そっと笑った。
「……うん。来てくれるの、嬉しい」
リリィの存在は、ノアにとって唯一無二の「安心」だった。
その日の登校時、バビルス学園内はすでにそわそわした空気に包まれていた。生徒たちは誰が来るか、何を披露するかで大盛り上がり。
「貴様ら……もう少し落ち着け」
カルエゴのいつも通りの冷ややかな声が響くが、生徒たちの浮かれムードは止まらない。
(……やっぱり、親が来るのって特別なんだ)
そして夕刻、魔具研究室にて、仲間たちが集まって話し始める。
クララは元気いっぱいに手を挙げた。
「クララんち、家族全員で来るってー!お父さんもお母さんも兄妹も!」
入間は少し気まずそうに笑う。
「理事長が来る予定だけど……忙しいから、来られるかは微妙なんだって」
アスモデウスはため息混じりに眉をひそめる。
「母が……来ようとしているのです。全力で止めていますが、抑えられるかどうか……」
(母……怖いのかな……?)
皆の話を聞きながら、黙っていた。
(私は……リリィが来てくれる…)
そんな静寂を破ったのは、キリヲだった。
「えぇなぁ~、懐かしなぁ、師団参観……。僕にも、保護者代わりみたいな人が来てくれてな」
と、その時。
『ブーーッ♪ ブルルルッ♪』
着信音が鳴ると同時に、キリヲが電話をとった。
「はいはい、もしも――」
『てめぇ!さっさとワンコールで出ろっつってんだろ、このクソメガネ!!』
師団室に響き渡った怒鳴り声に、一瞬全員が固まる。
キリヲはそそくさと部屋を離れ、電話の続きをしに外へ出て行った。
ノアはその声に、微かに眉を寄せる。
(……どこかで聞いたような)
胸の奥がざわりとしたが、思い出せず、言葉にも出せなかった。
その後、準備のために現地確認へ向かうと……。
「狭っ……」
魔具研究師団に割り当てられた場所は、申し訳程度の空き地。荷物を置けば、もう人が通れないほどのスペースしかなかった。
キリヲが申し訳なさそうに頭を下げる。
「皆にはほんま堪忍なぁ……僕のせいで、スペースも予算もよう貰えんで……」
「でも、せっかくだし……何か面白いことしようよ!」
と、クララが明るく言えば、入間も頷いた。
「うん。前に先輩が作った魔具で、空に綺麗な光を出してて、それをみんなに見せたくて」
アスモデウスは誇らしげに言った。
「火炎魔術であれば、私の力がお役に立つかと」
クララは両手をぶんぶん振りながら、
「クララはドーンでバカーンでドッカーンって、派手なのがいいー!」
みんなの意見がバラバラになってきた中で、ノアはぽつりと口を開いた。
「私は……ドキドキするのが、いい」
キリヲは笑いながら手を打った。
「なんやまとまりないなぁ~」
その瞬間、入間が何かをひらめいたように顔を上げた。
「花火だー!!」
「???」
「……えっとね、火薬の詰まった玉を、空に打ち上げて爆発させるの。綺麗な光の花が咲くんだ」
アスモデウス:「空で火薬を爆発……?」
キリヲ:「飛行者を撃ち落とすんか?」
クララ:「殺りく兵器!?」
ノア:「玉って……処刑玉砲……?」
「ちがうちがうちがう!」と慌てて両手を振る入間。
「観賞用ですよ!キレイな光の花火!夜の空に上がって目立つし、スペースも関係ないし!」
その提案に、皆の表情がぱっと明るくなった。
「それ、いいかも!」
「わー、絶対やろう!」
夜の実施となれば、お泊まり申請が必要だ。
不安げにカルエゴのもとへ足を運ぶ。普段なら堂々と構えているが、今だけは違う。
ゆっくりとカルエゴの執務室の扉の前に立った。
右手には、しわになった申請書。
小さな決意と、大きな不安が混ざり合って胸を締めつけていた。
(……行きたい。けど……)
離れたくない。
寂しい。
そんな子供じみた感情を押し込んで、扉をそっと叩く。
「失礼、します……」
「入れ」
その声に、ほっとする自分がいる。
カルエゴは、いつも通り机に座り、書類に目を落としていた。
ノアは静かに近づいて、小さな声で話し出す。
「師団で……夜通し作業することになって……その、申請……届けに……」
そっと申請書を差し出すと、カルエゴはそれを無言で受け取り、さらりと目を通す。
「……師団披露の準備か」
「入間くんが花火をやりたいって……皆で、作るの、魔具で」
言葉は前を向いているのに、声の奥にある小さな迷いを、カルエゴは見逃さなかった。
「…… ノアはどうなんだ。やりたいのか?」
はっとして、顔を上げる。
カルエゴの声は、どこかいつもより柔らかかった。
「……うん。皆と作りたい…わくわく、する。でも……」
そこで言葉が途切れる。
カルエゴの瞳がまっすぐに見つめてくる。
ノアはそっと目を伏せて、絞り出すように言った。
「……一晩、離れるのが……さみしい、」
カルエゴの表情が、わずかに揺れた。
それでも彼は言葉にせず、静かに椅子から立ち上がると、ノアの頭にそっと手を置いた。
「……正直でよろしい。少し、成長したな」
ノアの瞳が驚きで見開かれる。
「寂しさを感じられるのは、ちゃんと心を繋いでいる証拠だ。悪いことじゃない」
静かな声で、けれど確かに優しさを乗せて――カルエゴは言った。
「戻ってこい。ちゃんと、報告もしてみせろ。……その日を、待っている」
「……っ、うん」
ノアはこくりと頷き、唇を結んで笑った。
あたたかい手の感触が、胸の中の不安を少しだけ溶かしてくれた。
「行って、きます……カルエゴ …先生」
そう言って部屋を後にするノアの背に、カルエゴは視線を送る。
「……本当に、面倒な子だ」
けれどその声は、どこまでも優しかった。