光に導かれ蕾は色を変える
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昼休み、いつものように学食の一角で昼食を囲んでいた。
「ふふふっ、見て見てノアち~! クララの特製ピクルス爆弾だよーっ!」
「……爆弾?」
クララが突き出してきたお弁当箱からは、色とりどりの謎の漬物がぎっしり詰まっていた。ノアは警戒心と好奇心の狭間で目を細める。
「クララちゃん、そ、それ美味しいの?……」
「えぇ~っ!? ちゃんと美味しいのに~っ!」
隣でアスモデウスが苦々しげにため息をついた、その時だった。
ウゥゥゥゥゥゥゥン……!
突然、校舎全体に重たく響く警報音が鳴り響いた。
「な、なに……?」
ノアは思わず箸を止めて、周囲を見渡す。生徒たちのざわめき、何かが始まる予感。
「これは“師団”の招集サイレンだな」とアスモデウスが冷静に告げる。
「ば、師団……?」
入間が首をかしげると、アスモデウスがすぐに解説を始めた。
「師団とは、位階昇級を目的とした団体活動です。同じ趣味や目的を持つ者たちが集まり、協力して成果を上げることで位階の上昇も見込まれます。」
「へぇ~! なんか部活っぽい!」
「楽しそう……見に行ってもいい、かな」
入間とノアが興味を示すと、アスモデウスはふっと優しく笑い、二人に声をかけた。
「では、私の近くにいてください」
その言葉とほぼ同時に——
ドゴォォォォォン!
突然、地響きとともに学食の扉が吹き飛ぶかのように開き、上級生たちがなだれ込んできた。
「1年生はどこだあああっ!!!」
「入れ、我が師団にィィィッ!!!」
大柄な狼のような悪魔が、真っ直ぐに入間とノアに飛びかかろうとする。ノアは無意識に身を引いた。
だが、その瞬間——
ボウッ!
灼熱の炎が弧を描き、入間とノア、クララを包むように立ち上がった。
「……全く、無礼な」
アスモデウスの鋭い声とともに、紅蓮の魔炎が侵入者を退けた。
「す、すごい……アズくん……」
入間が感嘆の声を上げ、ノアも小さく息をのむ。目の前に広がる師団勧誘の喧騒、その中心にいながら、彼らは静かな安全地帯にいた。
炎の円の中、ノアは肩をすぼめるようにして周囲を見つめる。
——これが、学校……。
——誰かと一緒にいるって、こういうこと……?
すると、ひときわ異質な気配が近づいてきた。
「い、いつでも見学に来るがよい!」
生徒会長アメリが、入間に一枚のチラシを手渡していた。華やかな文字で【生徒会師団】と記されたそれを、入間は目を丸くして受け取った。
「わ、ありがとうございます!」
「……すごいね、入間くん」
ノアの琥珀色の瞳が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
それから一行は教室塔へと向かい、廊下を歩きながら他のクラスメイトたちとすれ違う。
「遊戯師団に入ったぜ!」とリードが笑い、
「僕は魔術開発師団に。実験三昧だ」とジャズ。
「我は女体研……」
「それ、存在しないからな」と即座に突っ込まれ、カムイは肩を落とした。
ノアは彼らのやりとりを、どこか不思議そうに見つめていた。
——みんな、楽しそうだな……
その時だった。
「……あれ? 入間ち、どこ行ったの?」
クララの声で振り返ると、入間がいつの間にかいなくなっていた。
「えっ……?」
「急に……走って行ってしまった」
その後、入間は戻らず、その日は自然と解散となった。
帰路、ノアは夕暮れの空を見上げながら、ぽつりとつぶやいた。
「……師団、わたしにも……居場所、あるかな」
誰に向けたでもないその声は、静かに夜へと溶けていった
***
カルエゴ邸の扉を開けると、香ばしいお茶の香りが微かに鼻をかすめた。
「ノアちゃん、おかえりなさい」
ふわりと笑顔で出迎えたのは、いつものリリィだった。温かい毛布のような声に、ノアは少しだけ力を抜く。
「……ただいま」
靴を脱ぎ、廊下を抜け、食堂に入ると、リリィが準備していたハーブティーが湯気を立てていた。
「お茶にしましょう。今日は……“師団勧誘の日”だったんですって?」
「……うん。入間くんと、アスモデウスくんと……クララちゃんと、学食で……」
椅子に腰かけ、カップを両手で包むように持った。しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開く。
「サイレンが、鳴って……。大きな悪魔が……わたしと入間を、掴もうとして……でも、アスモデウスが、守ってくれて」
「まぁ……大丈夫だったのね」
「うん。……怖かったけど、ちょっとだけ……楽しかった、かも」
リリィはふっと優しく微笑む。ノアの口から“楽しい”という言葉が出たのは、ほんの最近のこと。
「それは、よかったわ。ノアちゃんが無事で、そして少しでも楽しかったなら、安心よ」
「……それと」
ノアは言いかけて、視線を落とす。
「……“師団”って、団体活動なんだって。みんな、楽しそうに……話してて。……でも、わたし、まだ……わかんない」
リリィはノアの向かいにそっと座り、彼女の頭に手をのせる。
「わからなくていいのよ。ノアちゃんが“ここにいていい”って思える場所を、ゆっくり探していけば」
「……いていい、場所……」
「そう。それは、必ず見つかるわ。ノアちゃんが、ちゃんと居たい場所なら」
「……わたし、探してみる。ちゃんと」
「ええ。ノアちゃんなら、きっと大丈夫よ」
その夜、ノアは少しだけ長く、リリィの隣に座っていた。
静かな灯りの下で、心に芽生えた小さな“願い”を胸にしまいながら——。