蕾は優しい光に包まれる
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保健室での出来事の翌日から、ノアはサブノックと共に、毎日のように地下運動場へ足を運ぶようになった。
「ではいくぞ、ノア! 気を抜くでないぞ!」
サブノックが唸るように叫ぶと同時に、重力すら曲げるような速さの処刑玉砲が放たれる。
ドンッ――という轟音とともに、床がわずかに振動した。
それを見てから、ほんのわずかに体をずらす。
――当たらない。
けれど、かすった風が頬に冷たく当たった。
「……速い」
「はっはっは! それが余の矜持、魔界一の破壊球である!」
サブノックは誇らしげに胸を張るが、ノアは軽くうなずいただけで、表情は変えなかった。
目は真剣そのもの。全身の神経を集中させて、次の一球に備えている。
そんなノアを見て、サブノックはふと息を飲んだ。
(……凄まじい集中力―)
黙々と球を避け、時には取り、少しずつ動きが滑らかになっていくノアの姿に、彼はある種の“闘志”を感じていた。
無駄な言葉も、派手な反応もない。ただ、静かに。けれど確かに、ノアは闘っていた。
***
「……はあっ……」
数日後のある日。額にうっすら汗を滲ませたノアが、ゼーゼーと呼吸を整えている。
床にはいくつものボールが転がっていた。サブノックはというと、腰に手を当ててどこか感心したようにうなずいていた。
「……動きが、鋭くなったな、ノア。最初のころに比べて、だいぶ読みが鋭い」
「……ん。……少しずつ、慣れてきた」
短いが、確かに伝わる言葉だった。
ただ、それでもサブノックの前では、どこか緊張感を保ったままだ。
(けど、悪い気はしない……)
そんな表情を浮かべながら、サブノックはもう一球、球を拾った。
「次で最後にしておこう。我らの身体も、鍛錬には限度が必要だ!」
「……うん」
ノアが構える。サブノックの表情が引き締まり、最後の一球が空気を裂いた。
――ボッ!
その球を、初めて“完全に捉えた”。手のひらに、力強く、でもしなやかに当てて受け止める。
「……っ」
その瞬間、ノアの肩が小さく震えた。
それが疲労なのか、達成感なのか、自分でもわからなかった。
「受け止めた……ノア!」
サブノックが目を見張る中、ノアはゆっくりとボールを見下ろしながら、小さく呟いた。
「……取れた……」
その言葉の奥には、目標へ一歩近づいた喜びがあった。けれど、サブノックの前では、やはり表情を緩めることはなかった。
そのかわりに――目をそらしながら、ほんのわずかに口元を動かす。
それは、ほんの少しだけ……笑みの気配だった。
***
カルエゴ邸 ―
「…………もう一回、お願い」
夜。屋敷の広間に、静かな声が響く。
カルエゴが手にしたボールをゆっくり見つめていた。
「おまえ……またか。今日はもう10回目だぞ」
「……まだ、うまく……避けられないとき、あるから……」
カルエゴは軽く息をついて、しかし投げる構えを取る。
「なら、こちらも本気でいく。生徒だからといって、容赦はしないぞ」
「……うん。ありがと」
――数秒後、ボールが弧を描いて飛ぶ。
ノアは床を蹴り、風の流れを読むように動いて――避けた。
床に足が着く音と、空気が静かになる音。
カルエゴは腕を下ろしながら、低くつぶやいた。
「……筋がいいな」
「……教え方が、いいから」
視線をそらし、照れくさそうに呟いたその声に、カルエゴは目を細めた。
「……よく頑張ってるな、ノア」
「……ん」
今、彼女の中で確かに何かが育っていた。
努力すること。助けを求めること。仲間に支えられること。
そして――それを、当たり前として受け入れていく強さ。
処刑玉砲の練習は、まだ終わらない。
だがその瞳には、確かに“前を見据える”光が宿り始めていた。
***
地下でのサブノックとの練習、夜にはカルエゴの手ほどき。
“できるまで終わらない”その厳しさに、ノアの身体はすっかり限界を迎えていた。
「……ふぅ……」
湯気が立ち込める浴室。
湯船に肩まで浸かり、ほうっと息をついた。
ほどよい熱が、筋肉の奥までじんわりと染みこみ、まぶたがどんどん重くなる。
「……あったか……」
ぽつりと呟いたあと、そのまま、ふわりと意識がほどけていく。
やがて、浴室には静かな寝息だけが響いた。
***
時間が経っても出てこないノアに、異変を察したカルエゴは浴室の前に立った。
(遅い……)
ノックをするが返事は来ず、躊躇なく扉を開ける。
「……っ」
そこで目にしたのは、湯船の端に頭を預け、脱力しきったノアの姿だった。
ほんの一瞬、カルエゴの眉がピクリと動く。
彼女の白い頬はわずかに赤くなり、微かに湯が揺れている。
「……のぼせるぞ、馬鹿者」
無表情のまま言葉を吐き捨て、カルエゴは袖をまくって湯船に手を伸ばした。
そのままノアの肩を支え、慎重に引き上げる。
タオルを手に取り、何のためらいもなく包み込むようにくるんだ。
ノアは、ぼんやりと目を開けた。
「……ん……カルエ、ゴ……?」
「寝る場所を間違えるな。風呂は寝床ではない」
言葉は厳しいが、その動作は一切乱れがない。
ノアを抱えるようにして、静かに浴室を後にする。
***
寝室に着くと、カルエゴはベッドの上に横たえ、タオルで髪を拭き始めた。
ノアはされるがまま。ふわふわした意識のなかで、じっと彼の手の動きを感じていた。
「……カルエゴ、怒ってる……?」
「当たり前だ。貴様はもう少し自分を大事にしろ」
「でも……がんばり、たくて……」
「その結果、溺れて死ぬようでは本末転倒だ」
叱るような声。しかし、タオルの動きはやさしい。
ノアの視線が、カルエゴの顔にそっと向けられる。
けれど、その瞳は彼に正面から届かない。ほんの少し逸らしながら、か細く言った。
「……ありがと。カルエゴ……わたし、……」
言いかけた言葉は、喉の奥で消えた。
カルエゴもまた、何も言わずに黙って毛布をかける。
「寝ろ」
一言だけ残して、背を向け出ていくカルエゴ。
その背中を見つめながら、ノアはぽつりと囁いた。
「……すき、なんて……言えないよ……」
聞こえていたのか、いないのか。
カルエゴはただ、自室に戻っていった。
部屋には、静かな灯りと、ノアの穏やかな寝息だけが残されていた。
「ではいくぞ、ノア! 気を抜くでないぞ!」
サブノックが唸るように叫ぶと同時に、重力すら曲げるような速さの処刑玉砲が放たれる。
ドンッ――という轟音とともに、床がわずかに振動した。
それを見てから、ほんのわずかに体をずらす。
――当たらない。
けれど、かすった風が頬に冷たく当たった。
「……速い」
「はっはっは! それが余の矜持、魔界一の破壊球である!」
サブノックは誇らしげに胸を張るが、ノアは軽くうなずいただけで、表情は変えなかった。
目は真剣そのもの。全身の神経を集中させて、次の一球に備えている。
そんなノアを見て、サブノックはふと息を飲んだ。
(……凄まじい集中力―)
黙々と球を避け、時には取り、少しずつ動きが滑らかになっていくノアの姿に、彼はある種の“闘志”を感じていた。
無駄な言葉も、派手な反応もない。ただ、静かに。けれど確かに、ノアは闘っていた。
***
「……はあっ……」
数日後のある日。額にうっすら汗を滲ませたノアが、ゼーゼーと呼吸を整えている。
床にはいくつものボールが転がっていた。サブノックはというと、腰に手を当ててどこか感心したようにうなずいていた。
「……動きが、鋭くなったな、ノア。最初のころに比べて、だいぶ読みが鋭い」
「……ん。……少しずつ、慣れてきた」
短いが、確かに伝わる言葉だった。
ただ、それでもサブノックの前では、どこか緊張感を保ったままだ。
(けど、悪い気はしない……)
そんな表情を浮かべながら、サブノックはもう一球、球を拾った。
「次で最後にしておこう。我らの身体も、鍛錬には限度が必要だ!」
「……うん」
ノアが構える。サブノックの表情が引き締まり、最後の一球が空気を裂いた。
――ボッ!
その球を、初めて“完全に捉えた”。手のひらに、力強く、でもしなやかに当てて受け止める。
「……っ」
その瞬間、ノアの肩が小さく震えた。
それが疲労なのか、達成感なのか、自分でもわからなかった。
「受け止めた……ノア!」
サブノックが目を見張る中、ノアはゆっくりとボールを見下ろしながら、小さく呟いた。
「……取れた……」
その言葉の奥には、目標へ一歩近づいた喜びがあった。けれど、サブノックの前では、やはり表情を緩めることはなかった。
そのかわりに――目をそらしながら、ほんのわずかに口元を動かす。
それは、ほんの少しだけ……笑みの気配だった。
***
カルエゴ邸 ―
「…………もう一回、お願い」
夜。屋敷の広間に、静かな声が響く。
カルエゴが手にしたボールをゆっくり見つめていた。
「おまえ……またか。今日はもう10回目だぞ」
「……まだ、うまく……避けられないとき、あるから……」
カルエゴは軽く息をついて、しかし投げる構えを取る。
「なら、こちらも本気でいく。生徒だからといって、容赦はしないぞ」
「……うん。ありがと」
――数秒後、ボールが弧を描いて飛ぶ。
ノアは床を蹴り、風の流れを読むように動いて――避けた。
床に足が着く音と、空気が静かになる音。
カルエゴは腕を下ろしながら、低くつぶやいた。
「……筋がいいな」
「……教え方が、いいから」
視線をそらし、照れくさそうに呟いたその声に、カルエゴは目を細めた。
「……よく頑張ってるな、ノア」
「……ん」
今、彼女の中で確かに何かが育っていた。
努力すること。助けを求めること。仲間に支えられること。
そして――それを、当たり前として受け入れていく強さ。
処刑玉砲の練習は、まだ終わらない。
だがその瞳には、確かに“前を見据える”光が宿り始めていた。
***
地下でのサブノックとの練習、夜にはカルエゴの手ほどき。
“できるまで終わらない”その厳しさに、ノアの身体はすっかり限界を迎えていた。
「……ふぅ……」
湯気が立ち込める浴室。
湯船に肩まで浸かり、ほうっと息をついた。
ほどよい熱が、筋肉の奥までじんわりと染みこみ、まぶたがどんどん重くなる。
「……あったか……」
ぽつりと呟いたあと、そのまま、ふわりと意識がほどけていく。
やがて、浴室には静かな寝息だけが響いた。
***
時間が経っても出てこないノアに、異変を察したカルエゴは浴室の前に立った。
(遅い……)
ノックをするが返事は来ず、躊躇なく扉を開ける。
「……っ」
そこで目にしたのは、湯船の端に頭を預け、脱力しきったノアの姿だった。
ほんの一瞬、カルエゴの眉がピクリと動く。
彼女の白い頬はわずかに赤くなり、微かに湯が揺れている。
「……のぼせるぞ、馬鹿者」
無表情のまま言葉を吐き捨て、カルエゴは袖をまくって湯船に手を伸ばした。
そのままノアの肩を支え、慎重に引き上げる。
タオルを手に取り、何のためらいもなく包み込むようにくるんだ。
ノアは、ぼんやりと目を開けた。
「……ん……カルエ、ゴ……?」
「寝る場所を間違えるな。風呂は寝床ではない」
言葉は厳しいが、その動作は一切乱れがない。
ノアを抱えるようにして、静かに浴室を後にする。
***
寝室に着くと、カルエゴはベッドの上に横たえ、タオルで髪を拭き始めた。
ノアはされるがまま。ふわふわした意識のなかで、じっと彼の手の動きを感じていた。
「……カルエゴ、怒ってる……?」
「当たり前だ。貴様はもう少し自分を大事にしろ」
「でも……がんばり、たくて……」
「その結果、溺れて死ぬようでは本末転倒だ」
叱るような声。しかし、タオルの動きはやさしい。
ノアの視線が、カルエゴの顔にそっと向けられる。
けれど、その瞳は彼に正面から届かない。ほんの少し逸らしながら、か細く言った。
「……ありがと。カルエゴ……わたし、……」
言いかけた言葉は、喉の奥で消えた。
カルエゴもまた、何も言わずに黙って毛布をかける。
「寝ろ」
一言だけ残して、背を向け出ていくカルエゴ。
その背中を見つめながら、ノアはぽつりと囁いた。
「……すき、なんて……言えないよ……」
聞こえていたのか、いないのか。
カルエゴはただ、自室に戻っていった。
部屋には、静かな灯りと、ノアの穏やかな寝息だけが残されていた。