蕾は優しい光に包まれる
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝の光が、静かにカーテンの隙間から差し込んでいた。
「……朝……?」
ノアはゆっくりと目を開ける。ふかふかの枕、やわらかな布団、窓から差すやさしい光。
まだ慣れない――けれど、少しだけ好きになりつつある朝の景色だった。
「ノアちゃん、おはよう」
扉を開けて、リリィが穏やかな声をかけてくる。
見慣れた笑顔に、ノアの胸がふっとあたたかくなる。
「……うん。おはよう、リリィ」
「制服、とっても似合ってますよ。カルエゴ様も、きっとそう思ってます」
「……そ、そう……?」
鏡に映った自分の姿に、どこかむず痒さを覚える。
整えられた黒髪、品のある制服、そして――この生活。
(……まだ、ちょっと夢みたい)
***
バビルス学園の掲示板には、大きくクラス分けの紙が貼られていた。
《問題児(アブノーマル)クラス》
その文字を見た瞬間、ノアの心がざわつく。
(……問題児……?)
人前で目立つことは苦手だった。人と関わることも、まだ怖かった。
それでも、カルエゴに「仲良くしろ」と言われたのだから――努力しなければ。
(……大丈夫。わたし、できる)
地図を頼りにたどり着いた教室の前には、ひときわ大きな扉。
しかし、ところどころがひび割れ、外れかけた板が打ち付けられている。
(……ほんとに、ここ?)
ギィ……と音を立てて扉を押すと、次の瞬間――
「……っ!」
上から、横から、床から。無数の武器が飛んできた。
ノアの体が、自然に動く。
鋭い槍を蹴り払い、回転する斧を身をひねって避け、爆発寸前の玉を掴んで窓の外へ投げる。
教室内に、一瞬の静寂。そして――
「すごい!」「かっこいいわ!」「美しい回避でしたね!」
わっと騒ぎ出すクラスメイトたち。
ノアは思わず一歩下がり、壁際に寄る。
心臓が早鐘を打つ。こんなに多くの目で褒められることなど、今までなかった。
「……あ、ありがとう……ございます……」
うまく言えない言葉を、絞り出すように返した。
(……怖くない。みんな、笑ってる。……でも、どう返せばいいのか、まだわからない)
そのとき、教室の入り口から、すっと一人の少年が入ってきた。
ふわふわした髪とやさしい雰囲気――それは入間だった。
「わぁっ……!!」
慌てながら、すべての武器をかわして教室へ。
その動きに、クラスメイトが再び騒ぎ出す。
「さっすが入間くん!」「さっきの賭け、当たったわ!」
「入間が避けきるなんて……すごーい!」
(……すごい)
ノアは目を見開いた。
同じように避けていた自分と違い、入間はまるで遊んでいるかのような軽さだった。
(……この人が、カルエゴが言ってた……)
騒がしい教室。浮かれるクラスメイト。ノアの胸に、また不安が広がる。
(……わたし、ほんとうに、仲良く……できるのかな)
「全部避けたのは君とノアちゃんだけだよー。まあ、全部受け止めたのもいるけど」
誰かがそう言った直後、
バンッ! と、教室の壁が割れそうな勢いで開いた。
「笑止!! 避けるなど臆病なマネはせぬ! 己は!」
大声とともに現れたのは、大柄な悪魔の少年だった。
全身に武器が刺さり、ボロボロになりながらも誇らしげに胸を張っている。
「このサブノック・サブロは、魔王に相応しきビッグな男だからなァ!!」
(……なに、この人……)
ノアは思わず口を半開きにして、その登場を見つめた。
堂々と、というよりも破天荒で、まるで自分とは真逆の存在のようだった。
「先に“ヨド”となり、魔王になるのはこの己だァ!!」
宣戦布告のように吠えるサブノックに、入間が首を傾げる。
「……ヨドってなんですか?」
(……それ、わたしもちょっと思ってた)
質問を受けたサブノックは、ずんずんと入間に詰め寄る。
「派手なのは噂ばかりで、魔王の“間”の字も知らぬとは! ヌシはそれでも悪魔か!?」
するとその間に、すっと立ちはだかる影――アスモデウス・アリス。
「出たなアスモデウス!! 特待生の従僕になった時点で、己のライバル候補から脱落済みだ!」
「いるか! そんな称号!」
アスモデウスは勢いよく否定し、胸を張って言い放つ。
「それと私は従僕ではない!!! 私は入間様の“おトモダチ”だ!!」
クラス中がざわつく。
「お……おともだち……?」
ノアはその響きに小さく目を見開いた。
――ともだち。
それは、自分にはまだ、遠い言葉。
けれど、少しだけ……その言葉のあたたかさに憧れを抱く。
アスモデウスの言う“おトモダチ”は、
「共に時をすごし、苦楽を分かち合い、その方のためなら命を賭す血の契約」らしい。
(……ともだち…物騒……)
混乱するノアの思考を断ち切るように、教室の扉が荒々しく開いた。
「喧しいぞ貴様ら!!」
カルエゴの声が、轟く。
「外まで丸聞こえだ。もっと粛にできんのか!」
(……カルエゴ)
ノアの胸が少しだけ、ほぐれる。
教室に現れたその姿に、ぴんと背筋が伸びるのを感じた。
(……担任、なの?)
少しだけ――ほんの少しだけ、うれしい。