蕾は、黒に包まれて目を覚ます
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数日前から――ほんの少しだけ、カルエゴの様子が変わった気がしていた。
厳しさは相変わらず。
訓練では容赦のない指導が続くし、無言で本を差し出されることも多い。
けれど、それでもどこか違う。
(……視線が、やわらかい)
ふとした瞬間に見上げると、彼はわずかに目を細めていた。
それが叱責の予兆ではないと気づくまで、時間がかかった。
訓練のあと、「悪くない」とだけ言われた日。
ただそれだけの言葉なのに、どうしようもなく嬉しくて、胸が熱くなった。
(前より、声がやさしくなった……気がする)
思い過ごしかもしれない。
けれど、確かに感じる。
あの日、紅茶を飲んで「悪くない」と言ってくれたとき――
初めて笑えた自分に、カルエゴは何も言わなかったけれど、そのまなざしは、静かに寄り添うようなものだった。
彼の背中に守られた日もそうだった。
無言で自分を引き寄せた腕の中に、誰かを守ろうとする確かな強さがあった。
あれ以来、彼の姿が心に残るようになっていた。
書斎の扉の前を通るたび、彼がいると知っていても声をかけられず、ただ胸がきゅっと締めつけられる。
名前を呼ばれるだけで、鼓動が跳ねる。
(だめだ、こんなの……)
この気持ちが何かを、リリィと話して知ってしまった。
それでも、伝えることなんてできない。
嫌われたらどうしよう。
距離を置かれたら――もう、彼の隣にいられなくなるかもしれない。
ノアは手のひらをぎゅっと握った。
それでも、ひとつだけ心に誓っていた。
いつか、堂々と彼の隣に立てるくらい、強くなりたい。
想いは胸の奥にしまったまま。
けれどその火は、まだ消えることなく、静かに、確かに灯り続けていた。