花は灰色に染まり…
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仮面の下の真実が明かされた後
戦いは去り、静けさが戻ってきていた。
舞踏会の片隅、使われなくなった廊下の一角。
そこに、三人の姿があった。
ノアとアスモデウスがそっと寄り添うように、床に横たわる入間を囲んでいる。
彼はすやすやと寝息を立てて、まるで何事もなかったかのように安らかだった。
「……やっぱり、入間様はこうしてるとただの少年にしか見えないな」
アスモデウスがふっと笑いながら言った。
「でも、誰よりも大きなものを背負ってる。そういうところが…ずるい人」
ノアの声には、少しだけ羨ましさと尊敬が混ざっていた。
アスモデウスは静かに自分のマントを脱ぎ、折り畳んで入間の頭の下にそっと差し込んだ。
「せめて、枕ぐらいは…私が」
その姿を見て、ノアも小さく笑う。
「優しいね、アズくん」
「当然だ。彼は私の主であり、大切な……」
言いかけたときだった。
カツ、カツ、カツ。
廊下の奥から、靴音が近づいてくる。
ノアとアスモデウスが反射的に身構えたその瞬間、
角を曲がって姿を現したのは
「入間!」
カルエゴだった。
鋭い目が入間の姿を捉えた瞬間、表情が強張り、駆け寄る。
「アスモデウス……!どうした、入間は……!」
アスモデウスの肩に手を置き、詰め寄るカルエゴの声は珍しく焦っていた。
だがアスモデウスは落ち着いて、静かに答える。
「お静かに、カルエゴ先生。入間様は今、お休み中です」
「……は?」
カルエゴは拍子抜けしたように呟き、深いため息をついた。
そしてその目に、ほんのわずか安心の色が宿る。
「全く……こんな時にまで、呑気なやつだ……」
その姿を見たノアは、胸の奥がぎゅっと熱くなった。
ようやく、ようやく会えた
1ヶ月短いようで長い期間が終わった
その事実が、堪えきれない想いとなってあふれ出し
「カルエゴ」
その名を呼ぶと同時に、ふわりと彼の胸に飛び込んでいた。
「…ノア?」
驚いたように声を上げるカルエゴ。
けれど拒絶することはなく、そのまま彼女をしっかりと受け止めた。
その腕の中に、彼女は身を委ねる。
「もう…戻ってきた、から」
「…ああ」
言葉少なに返すカルエゴの声は、ひどく優しい。
アスモデウスは少しだけ視線を逸らし、肩をすくめると、
入間の上にそっと自分の上着をかけてやった。
夜が、深まってゆく。
こうして、ノアとカルエゴはその場を後にした。
静かに、ゆっくりと歩いて。
もう二度と、この手を離さないようにと願いながら。
向かう先は、カルエゴの屋敷
カルエゴの屋敷。
静まり返った夜の廊下を抜け、部屋の扉が閉じられる音がやさしく響く。
ノアはカルエゴの腕に抱かれたまま、ふと顔を上げた。
彼の胸元に頬を当てたまま、ずっと聞いていた心音が、ようやく落ち着いてきた気がする。
「…おかえり、ノア」
その低い声に、心がふるりと揺れた。
「ただいま、カルエゴ」
ささやくように返す声には、微かな震えが混じっている。
カルエゴはノアをそっとソファに座らせると、自身も腰を下ろした。
だが、すぐに彼の手が肩に触れる。
「立てるか?」
「うん……大丈夫」
けれど彼は納得していない様子だった。
次の瞬間、カルエゴの手がノアの頬にそっと触れた。
「……魔力の枯渇は?」
「少しだけ。でももう平気」
「それなら怪我は?」
「え……?」
問いの意味を理解する間もなく、カルエゴの手が、ノアの髪を払いながら額をそっと撫でた。
「っ……」
優しい手つきだった。
まるで壊れ物を扱うように慎重で、それでいて確かに、彼女の存在を確かめる強さがあった。
「血の匂いが微かにする。袖をまくれ」
言われるがままに、外套を脱ぎ、腕を差し出した。
捲った袖の下には、小さな切り傷がいくつか。
それを見た瞬間、カルエゴの眉がきゅっと寄った。
「これは……いつの傷だ」
「破片に…!でも、浅いから大丈夫」
しかし彼は納得しないようだった。
右腕、左腕、首筋、肩、背中、そして脚
ノアの体を丁寧に、触れながら、確かめていく
魔術による診察ではない、あくまで彼自身の手で。
指先は熱を帯びていて、それが心臓を何度も高鳴らせる。
「っ……ん、くすぐったい……」
「我慢しろ。……ここに戻ってきたからには、俺の手で確認させろ」
「……ん」
ノア小さく頷き、目を伏せた。
触れられるたび、思い出す。
あの寒い夜、彼の「生きろ」という声だけを頼りに歩いてきた過去を。
私は、もう独りじゃない。
そう思えたこの瞬間が、何よりも愛おしかった。
ひととおり全身を確認し終えたカルエゴは、深いため息を吐いた。
「……無事で良かった。もう、無茶はするな」
「うん。カルエゴが、待ってくれてたから」
その言葉に、カルエゴの瞳が少しだけ細められ、
次の瞬間、彼はそっと頭を引き寄せ、抱きしめた。
「……心配かけるな」
「心配、かけちゃったね」
「二度と、だ」
「うん、カルエゴ…」
その時、ノアの声は甘く、どこまでも柔らかだった。