花は灰色に染まり…
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仮面が、床に落ちた。
淡く響く硬質な音。
それは舞踏会の余韻を断ち切り、戦闘の緊張を新たに呼び起こした。
ノアに気づいた入間とアスモデウスは、瞬時に魔力を展開しようと構える。
ぴり、と空気が張り詰めた。
だが
「落ち着いて、二人とも」
ノアは肩の力を抜き、くすりと笑った。
それは、ほんの少しだけあどけなさすら残る、どこか懐かしい笑みだった。
「実はね……」
その一言と共に、彼女の視線は遠くへと泳いでいく。
一ヶ月前へと、時間が巻き戻されていった。
***
バビルス学園、理事長室。
その日、ノアはオペラに呼び出されていた。
いつも冷静で穏やかな理事長補佐の顔が、その日ばかりは少し険しい。
「貴女は監視対象です」
ノアの前に立つオペラが、はっきりと告げる。
「そして、しばらく学園から離れていただきます」
「……えっ?」
思わず漏れた声。
静かに動揺するノアに対し、オペラは優しく続けた。
「……あ、いえ。あなたが彼らクロム・ナイフの仲間だと思っている訳ではありませんよ」
そう断った上で、
「ただ、あなたには彼らの目的を探ってきてほしいのです」
「私が…ですか?」
問い返すノアの声は、わずかに震えていた。
オペラは深く頷く。
「はい。過去のお話を聞いていれば、彼らが“あなたの尋常ならざる戦闘センス”を求めていることは明らかでしょう。潜入には最適だと、理事長も判断しています」
「でも……私はもう、過去に関わりたくは」
言いかけたノアの視線が、横にいる人物を捉えた。
カルエゴ。
彼を見つめるその目は、もはや迷いはない
思い出す。
「一緒に守る」と約束したあの日を。
彼の元に戻るためなら、どんな闇も越えてみせる。
ノアは膝の上で手を組み、静かに言った。
「私がその任務を受けることは、この学園を守ることに繋がりますか?」
オペラはしっかりと頷く。
「ええ、必ず」
「わかりました。お受けします」
ノアは覚悟を決めた。
「ですが、過去に関わるのはこれが最後です。
私は、カルエゴの元でしか生きていけません。
彼のそばで生きるために必要なことはします」
そして、言葉に力を込めて続けた。
「でも、心配はかけたくありません。だから潜入後でも構いません。
クロム・ナイフの組織を破壊し、そこにいる幼い暗殺者を救い出すと約束していただけるなら、
私はやります」
その申し出に、オペラは微笑を浮かべる。
「わかりました。お約束します」
契約が交わされた。
そして
「仮にその間、私たちが邂逅したとしても、戦闘で魔術を使わなければ“敵”とみなしその場では保護しません」
そういう取り決めが交わされたのだった。
***
現在。
ノアは入間とアスモデウスの前で、まっすぐに頭を下げた。
「ごめんなさい。あの時、二人に…三人には酷いことをしてしまって、本当に……ごめんなさい」
言葉を選びながらも、深い謝意を込めて。
だが、反応は意外なものだった。
「し、仕方ないよっ! 事情が事情だし!」
入間の声が裏返っている。思いのほか動揺していたらしい。
「そ、それに怪我もしてないし! ねっ!」
「そうだ。私は無傷だし、何より……」
アスモデウスは胸を張って言い放つ。
「入間様も無事だった。それが最も重要なことだ!」
ノアが、ふっと笑いそうになるその時
「わっ、入間さまっ!?」
「入間くん!?」
ふらり、と入間の身体が傾いた。
アスモデウスが素早く駆け寄り支えるように抱き留める。
ノアも思わず駆け寄ると、入間の顔は穏やかで
「……すぅ……」
すっかり寝息を立てていた。
緊張と疲れ。
張り詰めていた糸が切れた瞬間、彼の身体は休息を求めていたのだ。
「…疲れちゃったんだね」
ノアが小さくつぶやいた。
アスモデウスと視線が合い、ふたりは肩をすくめた