花は灰色に染まり…
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音が消えた。
否、音という概念すら置き去りにされるほどの衝撃が、空間を破壊したのだ。
ガァァァァン!!!
仮面舞踏会の煌びやかな壁が、粉々に砕け飛ぶ。
外から無理やり押し入ってきたのは巨大な悪魔、ベヘモルト。
ざわめきが、叫びへと変わる。
それすら一瞬で凍りつくほどの緊張が、場を支配した。
そのときだった。
静けさのなかを裂いて、一人の男が飛び出した。
彼の拳が、まっすぐにベヘモルトの顔面を捉える。
ドンッ!!
乾いた音と共に、ベヘモルトの頭部が横へのけぞり、巨体がよろめいた。
同時に、会場の空気が急激に冷え込む。
今度は三方向から。
瞬時に展開された三重の魔法陣が、空中を奔る。
三傑サリバン、ベリアール、レディ・レヴィ。
三人が同時に魔術を放ち、会場にいる客人すべてを守り、制圧した。
それに要した時間、わずか十三秒。
魔術の乱発は高位階悪魔が最も恐れる事態であり、それを未然に防ぐ鉄壁の対応。
静まり返る会場。
ベヘモルトは床に倒れ伏し、ひくり、と痙攣していた
「……ゆるさぬ……」
誰かの声がした。
いや、正確にはベヘモルトの声のはずだった。
「新13冠など……! その席は、わしの、わしのものだ……!」
しかしその唇は、既に魔術で封じられていた。
言葉を発することなど、できるはずがない。
誰もが、疑念と戦慄を抱いた瞬間。
ベヘモルトの腹部が、蠢いた。
「う……あ……?」
ぐにゅり、と皮膚が波打ち、肉が裂ける。
そこに現れたのはもう一つの口だった。
「このイスは……わしのものだ…わしのものだ……!」
異様な声が、まるで会場そのものに反響するように響く。
ノアはその歪な様を見つめながら、息を呑んだ。
視線が自然と動く。探すように。入間…
彼を守らなければと、身体が動こうとしたその時。
入間は既に動いていた。
蒼の弓が彼の手にあり、
矢に乗せられたのは、見覚えのある燃える魔力アスモデウスの炎。
「……!」
ただ、真っ直ぐに。
入間の目に迷いはなく、その矢が、真にベヘモルトを貫こうとした、その時。
ピシィン!!
透明な壁が、何かを守るように張り巡らされ、矢ははじかれた。
その隙を逃さず、バールが雷鳴と共に前へ出る。
手を掲げ、ベヘモルトを再度制圧。
一人の少女仮面の“姫”を庇って。
雷皇の守りは鉄壁だった。
その頃、ノアの視線は別の方向へ向いていた。
キリヲ。
逃げるように、結界を張りながら動き出す彼の姿が、影に差す。
だが、それを追っていた者がいた。入間。
ノアは躊躇わず、影の中に滑り込んだ。
聞こえてくるのは、キリヲの囁くような声。
「兄さんが、英雄になった。
強力な後ろ盾を得て、これからの魔界を支配していく存在に……」
その声は、優しくも毒を孕んでいた。
「混沌こそ、魔界の真の姿。君みたいな“居場所が偽物”の悪魔には」
キリヲの指が、入間の角に触れそうになる。
「“新しい居場所”を用意してある」
その笑みは、狂気そのものだった。
「君が一人になったら……僕が受け入れたるよ。
血も、肉も、骨も、魂も、全部……」
その瞬間、瓦礫が砕け飛んだ。
アスモデウス・アリスが、紅蓮の瞳で叫ぶ。
「たわけたことを抜かすな!!」
火の如き怒りが、その身に宿る。
「今後、入間様が一人になることなど、決してない。
なぜなら、入間様の傍には必ず
このアスモデウス・アリスがいるからだ!!」
一拍の静寂。
キリヲが、クスッと笑う。
「前にも言うたやろ? 君は、なーんも知らん……
教えたろか? 入間くんは、“にん……”」
その言葉は、最後まで届かなかった。
影が裂けた。
そこから飛び出したノアの膝が、キリヲの腹に突き刺さる。
ぐえ、と声にならない呻き。
そのまま、拳が頬を叩きつけ、キリヲの身体が吹き飛ぶ。
石畳を転がる彼を見下ろしながら、ノアはゆっくりと仮面に手をかけた。
外す。
黒い髪と、冷たい瞳。
だがその奥に燃えるのは、怒りと決意。
「もう、黙ってて」
冷静で、それでも確かな意志がこもったその声。
ノアは真正面から、入間とアスモデウスの方を見据えた。