花は灰色に染まり…
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新13冠の発表は、厳かにだが静かに行われた。
「ナベリウス・ナルニア殿」
「盤外のメフィスト殿」
このふたりの名が高らかに告げられると、会場中に魔力の揺らぎが走る。
歓声ではない。息を飲む音と、魔力の流れの変化。それだけが空間を満たした。
「よって、この時をもって」
司会の声が続く。
「ナベリウス・ナルニア殿には狗帝、盤外のメフィスト殿には盤外王の二つ名を与え、十三冠の任に就いていただく」
ふたりの後ろに、それぞれの紋章が浮かび上がる。
狗帝の象徴たる鎖の輪と、盤外王の碁盤のごとき魔紋が光を放った。
だが、その神聖な儀式に、ひとりの悪魔が異を唱える。
「待った、だ」
その声が響いた瞬間、空気が裂けた。
雷の如き重低音、そして圧倒的な存在感。
壇上に立つ、雷皇バールが片手を掲げ、雷を集めながら言い放つ。
「これだけ優秀な悪魔が揃ってるってのに、たった2人しか選ばねーなんてもったいねえと思わねえか?」
ざわ、と魔力がざわめく。
「2名を除名して新しく埋める。それは理解してる。
だがよぉどうしてもう一席空けねえ?
どうして、ずっと空っぽのままなんだよ?」
その問いに、場内が凍りつく。
「“あの椅子”を、だ」
一瞬、誰もが沈黙する。
バールの口元がゆがむ。
「十三冠の中で最も気高く、しかし今の魔界には不要で、何百年も空席の
輝かしき王の遺産」
その言葉に反応したのは、他の十三冠たちだった。
「ま、待て雷皇バール! その椅子は……」
「除籍すべきだと俺は思う!」
バールの声が、雷を伴って爆ぜた。
「未来だの、TS計画だのと新しいもんを持ち出しながら
消えた王の椅子だけはずっと手放せねぇ?
未練がましく、消えた魔王を抱えてる?
ちゃんちゃらおかしいぜ!」
静止しようとするベリアールが声を上げる。
「バールよ、何にせよ今この場での決定は不適切じゃ。
この場には多くの来賓もいる。混乱を招くぞ」
「だからこそだろ!!」
怒鳴り声とともに雷が炸裂する。
「今!この場で決めるべきだろうが!!
ここには高位階悪魔たちが集まり、十三冠が揃っている!
未来の魔界を語る場なら、決めちまおうぜ!
“過去の亡霊”を、今ここで終わらせてやろうってな!」
そのとき、初めて沈黙を破ったのは、壇上に佇んでいた三傑のひとり、サリバンだった。
彼の声は低く、そして静かだった。
「……バールくん、あの方は」
「“戻る”と言ったのですか?」
バールはゆっくりとサリバンに振り返る。
「それとも、それは貴方が願ってるだけではないのですか?」
会場が揺れる。
誰もが、沈黙した。
その場にいた誰もが、事態の深刻さを理解しきれずにいた。
それでも確かに、“歴史が動く瞬間”に立ち会っているという感覚だけは、全員の胸を打っていた。
そして、それは錯覚を生んだ。
ズシン。
重低音のような衝撃が会場の壁を通じて響いた。
ズズン。
二歩目。まるで地鳴りのように空気が震えた。
(これは……? )
「何かが、来る!」
誰かが叫ぶよりも早く、
巨大な何かが壁を突き破って乱入してきた。
石壁が吹き飛び、魔力のバリアが弾け飛ぶ。
飛び散る瓦礫の向こうから、咆哮が響く。
「ギィィィイイイイィィィイ……!!」
ベベモルト。
魔界の13冠にして、暴食と混乱を招く災厄。
その巨大な躯体が、仮面舞踏会の会場へと突入してきたのだった。