花は灰色に染まり…
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仮面舞踏会
それは、悪魔たちにとって“本音”を隠し
仮面の“真実”だけを楽しむ夜。
選ばれた者だけが招かれ、許された者だけが参加を許される、特別な社交の場だった。
その日。
ノアはキリヲから手渡された一枚の招待状と、美しい仮面を手にしていた。
「この仮面をつければ、君はもう“ただのノアちゃん”じゃない。
誰にも知られず、誰にも邪魔されず、好きに楽しめるよ?」
そう言って笑ったキリヲの声を思い出す。
仮面を指先でなぞりながら、ノアはほんの少しだけ息を吐いた。
会場へと足を踏み入れた。
彼女の隣には、黒衣の青年キリヲがいる。
大階段の上から見下ろすその光景は、まさに魔界の幻想だった。
無数の悪魔たちが仮面で顔を隠し、煌びやかなドレスやスーツに身を包み、笑い合い、囁き合い、魔力を滲ませながら踊っている。
「さ、行こう。レディ」
キリヲが優雅に手を差し出す。
少しだけ戸惑って、それでも仮面の奥で笑って、彼の手を取った。
「ええ、よろしくね。ジェントル」
会場の規則に従ってそう返すと、二人は並んで階段を降りた。
踏み出すたびに鳴る、靴音。
舞踏会の音楽と溶け合うように、ノアの足取りは自然と軽くなっていた。
けれどほんの十数秒後、キリヲはあっさりとその手を離す。
「兄さんから任されてることあるから、僕はこの辺で。
好きにくつろいでてえぇよ!」
「…ええ、ありがとう」
にこやかに笑って消えていくその背を見送りながら、ノアは一人、壁際へと歩く。
高く積まれた氷の彫像と、低く灯された魔法の光。
冷たさと熱さの混在する空間に、ふと小さく息を吐いた。
そのときだった。
ざわざわと、場内の空気が揺れる。
一部の悪魔たちが道を開け、視線が一点へ集中していく。
ノアもまた目を向ける。
その先に現れたのは現13冠の一人雷皇バール。
その隣に静かに歩むのは、まだ若いがどこか堂々とした気配を纏う男。
ナベリウス・ナルニア。
今回の“新13冠候補”として、公式に名が上がっている存在。
ナルニアは飾り気のない黒の礼服に、白金の装飾があしらわれた仮面をつけていた。
一礼ののち、指定された高位の席に座ると、まっすぐに一点を見つめる。
(…?)
ノアもその視線を追う
そして、呼吸が止まった。
そこにいたのは、入間。
遠く、舞踏会の端に佇む姿。
黒のタキシードを着こなしたその姿は、どこか緊張していて、それでも目立っていた。
(……どうしてここに?)
けれど顔には出さない。
仮面があるとはいえ、今この場で感情を晒すわけにはいかない。
静かに目を閉じ、深く息を吸って、吐く。
一度で不安が消えるわけではない。
でも、それでもいい。
次の瞬間場内の明かりが一斉に落ちる。
「レディース&ジェントルメン
ようこそ、悪魔たちの秘めやかな夜会へ!」
司会の声が響き渡る。
「これより、“三傑”によるご挨拶を始めます」
舞台に浮かび上がる、三つの魔影。
威厳と圧を帯びたその存在が、客席の空気を一瞬で緊張させた。
「我ら三傑、皆様を心より歓迎いたします」
「本日、ここに宣言されるのはトリックスター計画」
「若き才能を見出し、育成する。
それは、これからの魔界にとって不可欠な試み」
「魔界は、生まれ変わる」
「今ここに、TS計画を宣言する!」
一斉に拍手が鳴り響く。
(トリックスター計画……)
ノアはその響きを口の中で繰り返した。
才能ある若き悪魔たちを選抜し、十三冠や高位魔族たちが直接教育を施す計画。
表向きは“育成”だが、裏には数多の思惑と政治的な意図が渦巻いているのだろう。
次の瞬間、舞台袖から響いたのはピアノ。
ノアは音に誘われるようにそちらへ目をやり見つけてしまった。
カルエゴ。
舞台端で、淡々とピアノを奏でる黒衣の男。
指先は冷静で無駄がなく、顔は仮面で見えないのに、まるで鉄壁のように感情を見せなかった。
けれどその瞳だけが、確かにこちらを見ていた。
ノアは驚き数秒見つめあったあと
そのまま踵を返し、会場を後にする。
たどり着いたのは、広間の奥に設けられた更衣室。
誰もいないその場所で、ノアは仮面を外し、ドレスを脱いだ。
冷たい空気が肌を撫でる。
だが、心は不思議と落ち着いていた。
着替えたのは、淡いピンクのドレス。
それはもともと会場スタッフに渡しておいたもので、誰にも気づかれないよう準備していた。
鏡の中の自分は、まるで別人だった。
「… 行こう」
再び仮面をつけ、ノアは足早に会場へ戻る。
その瞬間、耳に届いたのは
『さあ、お待ちかね。
これより新十三冠の正式発表を行います!』
舞台上に浮かび上がる名。
照明が一点を照らし、緊張感が高まる。
仮面の奥で、静かにその光景を見つめていた