花は灰色に染まり…
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重たい扉が閉じる音が、屋敷の中に静かに響く。
あの戦いから数時間
アトリに連れ戻され、薄暗い寝室の片隅に腰掛けていた。
熱が胸に残っている。
それはカルエゴに吹き飛ばされた衝撃の痛みではなく、あの瞳がノアを見るときの、言葉にできないもののせいだった。
ノア黙ってアトリに手当を任せていた。
「痛くない? ほら、包帯、ちょっときつく巻くねぇ〜」
無邪気な声と裏腹に、アトリの手つきは妙に器用だった。
薬を染み込ませた布を丁寧に当て、包帯で固定する。
その指先が時折、わざとらしく肌に触れてくるのが煩わしい。
「…アトリ」
「ん〜?」
「入間くんを連れてきて何をするつもりなの?」
その問いに、アトリは明らかに喜色を浮かべた。
やたらと上機嫌な様子で、くすくすと笑う。
「ん〜? 興味あるんだ? ノアちゃん♡」
黙って、じっとアトリを見つめる。
「ふふ、じゃあ教えてあげてもいいけどぉ〜」
指先でノアの頬を撫でるように触れながら、アトリは唇を歪める。
「キスしてくれたら、考えよっかな♡」
その一言で、ノアの眉がぴくりと動く。
思わず顔を背けそうになるのをこらえ、深く息を吐く。
「…わかったわ」
ノアはそっとアトリの顔に手を伸ばす。
柔らかく、だが一切の情熱を感じさせない手つきで、彼の頬を包む。
「え……ほんとに……?」
困惑とも喜びともつかない声音で呟くアトリに、顔を寄せ、そっと唇を重ねた。
ただ触れ合うだけの口づけ。
けれどアトリは、それだけで全身を震わせるほど喜びに打ち震える。
しかしすぐにその唇が、さらに深く侵食してきた。
「……足りないよ、ノアちゃん」
吐息交じりに囁かれた瞬間、ノアは肩を押し倒され、柔らかなベッドに背を落とされた。
「……っ!」
言葉を紡ぐ間もなく、再び唇が奪われる。
今度は深く、粘つくように。
アトリの舌が、容赦なくノアの唇の隙間をこじ開け、侵入する。
舌が絡み、濡れた音が狭い部屋にいやらしく響く。
胸の内にぞわりとした感覚を覚えながらも、唇を離せない
「っ……ぅ…」
感情を押し殺し、アトリの吐息を受け止める。
舌の動きは、思いのほか技巧的だった。まるでこの瞬間を待っていたかのように。
やがてアトリの唇がようやく離れた。
糸を引くように濡れた音が途切れ、ノアはわずかに肩で息をする。
目を伏せる彼女の顔を見て、アトリは心底嬉しそうに微笑んだ。
「ノアちゃん……ほんと、ほんとに可愛いねぇ……♡」
その声がくすぐるように耳元を撫でた。
「約束だし、話すねぇ」
押し倒したまま、アトリは囁くように話し始める。
「入間くんはねぇ、デルキラ様の復活に必要なんだよぉ」
「……デルキラ様の?」
「そう。そんでね、驚かないでよ〜?」
ふふっと笑って、アトリはさらに囁く。
「入間くんは……人間なんだって♡」
その言葉に、ノアは目が大きく見開かれる。
(人間……? うそ……)
想像もしていなかった言葉だった。
あの穏やかな笑顔の裏に、そんな秘密が隠されていたのかと
しかし、すぐに感情を押し殺し、唇を曲げる。
「じゃあ、急いだ方がいいね」
「でしょ〜?」
嬉しそうに笑うアトリは、そのまままたノアの唇に指を添える。
「ねぇ、続き……してもいい?」
「やめて」
無感情に言い放つと、ノアはアトリに軽く蹴りを入れた。
アトリの体がベッドの端まで転がり、彼はくすくす笑う。
「照れ屋さんだなぁ〜、ノアちゃんは♡」
ノアは何も言わずに立ち上がり、整った歩幅で部屋を後にする。
ただ一度だけ、扉を閉める直前に、唇をそっと噛み締めた。