季節をめくる花
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理事長室。
装置は、無惨に破壊されていた。
ノアは、その残骸に視線を落としながらも、駆け寄ってきたルミナとブリオを強く抱きしめた。
「よく頑張ったね!偉いよ」
すぐに2人を影の中へ隠す。敵が、まだどこかにいる。直感が警鐘を鳴らしていた。
しばらくそのまま走っていた…その時だった。
空から平穏を突き破るように、ドンッ!という重い音が落ちてくる。
土煙の中から現れた影は、ゆっくりと顔を上げる。
「ノアちゃんだよねぇ〜……?」
アトリだった。
狂った笑みを湛えながら、その目だけが異様に冷たい。
「アトリ……先生?」
その瞬間、ノアの身体が本能で動いた。
次の瞬間、拳が真横から飛んできた。
咄嗟に身体を捻るも、左肩に直撃。
「ッく……!」
骨が軋む音がした。
そのまま距離を取ろうとするが、すでにアトリの動きは目の前にある。
一撃、二撃、三撃。
影で回避しながらも、時折滑るように入ってくる拳がノアの体に確実にダメージを刻んでいく。
「先生…これは試験です!なぜ私を…なぜハートじゃなく私を狙うんですか……!」
返ってきたのは、ふざけた声だった。
「ン〜……だってぇ、面白いかな〜って思って」
「……!」
その瞬間、ノアの心に走ったのは怒りだった。
目の前にいるのは、ただの教師ではない。敵だった。明確な殺意を持つ、悪意の塊。
(……ブリオとルミナ……)
彼らの名が頭をよぎった瞬間、ノアは決断した。
「ブリオ、ルミナを連れて逃げなさい!」
影の中に声を投げかける。
しかしブリオは動けない。アトリの気配に圧され、怯えたように足をすくませている。
ノアは声を荒らげた。
「早く!! 行けッ!!」
怒号のような言葉に、ブリオは目を見開き、ルミナを抱えて走り出す。その姿を確認すると、再びアトリと正面に向き合った。
アトリは飄々と笑う。
「やれやれ。クロムの残り物は情が深いなぁ〜」
「私はもう、そちらには戻らない」
「でもね〜、その力、捨てるのはもったいないよ?」
次の瞬間、アトリの足が閃光のように動いた。
ノアが影で避けようとした、その直後。
「ッッ!!!」
アトリの蹴りが、ノアの左足を貫いた。
黒い布のように伸ばされた魔力の刃が、膝下を串刺しにする。
激痛が脳を焼いた。支えを失い、片膝をつく。
血が、床を赤く染めていく。
それでもノアは倒れなかった。
(……まだ…ダメ…)
「私は……守るって、決めたからッ!」
呻くように、ノアは全身の魔力を搾り出す。
黒翳が、影の波のように周囲に広がる。だが、出力はもう限界だ。
アトリが近づく。笑いながら、踏みつけるように歩いてくる。
「まだそんな顔できるんだ?おもしろ〜い。やっぱり壊しがいあるわ」
ノアは手を上げた。最後の、影の刃。
けれどそれはかすれた影にしかならなかった。
アトリがノアの胸倉を掴み、顔を寄せる。
「さ、帰ろっか?クロムの殺し屋ちゃん」
最後まで睨んでいた。気を失う直前まで、歯を食いしばり、闘志を絶やさず。
だが、力尽きた身体は抗えず、アトリに抱えられ、そのままどこかへと消えていった。