蕾は、黒に包まれて目を覚ます
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朝。空は薄く白んで、夜の冷気がまだ地面に残っている。
屋敷の裏庭に出たノアは、両肩に力を込める。
ふわり、と背から黒く大きな翼が展開された。
『……昨日よりは、軽い』
彼女の背に生えた羽は、最初こそ意思通りにならなかったが、日々の練習で感覚がつかめるようになってきた。
それでも、飛ぶという行為には勇気が要る。
何かに襲われることを警戒して生きてきた身体が、空という無防備な世界に身を晒すのを拒むのだ。
「行くぞ。今日は昨日より上空に上がる」
カルエゴの指示に、ノアは無言でうなずいた。
羽ばたき、浮く。
地面が遠のくたび、心臓が跳ねる。
でも、怖いとは思わなかった。隣にカルエゴがいるから。
『……もう少し、高く……!』
足元の木々が小さくなり、朝の風が髪を揺らす。
初めて空を飛んだ日よりも、遠く、自由だった。
着地の練習も加わり、羽ばたきの角度や魔力の使い方も細かく矯正された。
筋肉の痛みが、成長の証のようで心地よかった。
昼食をとった後は、魔術の時間。
今度は屋敷の訓練場で、魔術円を描く。
「同じ術式ばかりではなく、応用も覚えろ。次は《シールド》を試す」
床に描かれた防御魔術の円をなぞる。
一見、火や氷のような派手さはないが、命を守るための術だとカルエゴは言った。
ノアは何度も繰り返し、何度も失敗した。
魔力が偏って破裂し、魔術円が消えるたびに、ノアは悔しそうに眉をひそめる。
『(またダメ……でも、あきらめたくない)』
何時間も繰り返し練習し、夕暮れには肩で息をしていた。
カルエゴは特に褒めない。けれど、今日の最後に一言だけ言った。
「昨日より安定している。続けろ」
その一言が、ノアには何よりの報酬だった。
夜。
風呂に入る前、リリィがそっと声をかけてくれた。
「ノア様、背中に絆創膏が必要でしたらお申しつけくださいね。羽の付け根が擦れるのは慣れるまでの辛抱ですから」
ノアは小さくうなずき、リリィの言葉を心に留めた。
ベッドに横たわると、目の奥がじんわりと重い。
『今日も、生きてる……』
自分で生き方を選んでいるという実感が、日々少しずつ心を満たしていく。
明日もまた、飛んで、学んで、失敗して――
それでも繰り返すのだ。未来の自分のために。
屋敷の裏庭に出たノアは、両肩に力を込める。
ふわり、と背から黒く大きな翼が展開された。
『……昨日よりは、軽い』
彼女の背に生えた羽は、最初こそ意思通りにならなかったが、日々の練習で感覚がつかめるようになってきた。
それでも、飛ぶという行為には勇気が要る。
何かに襲われることを警戒して生きてきた身体が、空という無防備な世界に身を晒すのを拒むのだ。
「行くぞ。今日は昨日より上空に上がる」
カルエゴの指示に、ノアは無言でうなずいた。
羽ばたき、浮く。
地面が遠のくたび、心臓が跳ねる。
でも、怖いとは思わなかった。隣にカルエゴがいるから。
『……もう少し、高く……!』
足元の木々が小さくなり、朝の風が髪を揺らす。
初めて空を飛んだ日よりも、遠く、自由だった。
着地の練習も加わり、羽ばたきの角度や魔力の使い方も細かく矯正された。
筋肉の痛みが、成長の証のようで心地よかった。
昼食をとった後は、魔術の時間。
今度は屋敷の訓練場で、魔術円を描く。
「同じ術式ばかりではなく、応用も覚えろ。次は《シールド》を試す」
床に描かれた防御魔術の円をなぞる。
一見、火や氷のような派手さはないが、命を守るための術だとカルエゴは言った。
ノアは何度も繰り返し、何度も失敗した。
魔力が偏って破裂し、魔術円が消えるたびに、ノアは悔しそうに眉をひそめる。
『(またダメ……でも、あきらめたくない)』
何時間も繰り返し練習し、夕暮れには肩で息をしていた。
カルエゴは特に褒めない。けれど、今日の最後に一言だけ言った。
「昨日より安定している。続けろ」
その一言が、ノアには何よりの報酬だった。
夜。
風呂に入る前、リリィがそっと声をかけてくれた。
「ノア様、背中に絆創膏が必要でしたらお申しつけくださいね。羽の付け根が擦れるのは慣れるまでの辛抱ですから」
ノアは小さくうなずき、リリィの言葉を心に留めた。
ベッドに横たわると、目の奥がじんわりと重い。
『今日も、生きてる……』
自分で生き方を選んでいるという実感が、日々少しずつ心を満たしていく。
明日もまた、飛んで、学んで、失敗して――
それでも繰り返すのだ。未来の自分のために。