蕾は黒に見守られ花開く
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昼食を終えたあと、リリィがひと言、「午後はお出かけでもしましょうか」と提案した。
ノアが少しきょとんとした顔をすると、リリィはにっこり笑う。
「たまには、お屋敷の外にも出なきゃ。終末日も残りわずかなんですから!」
「…出かけるの?」
「もちろん。街に行って、ちょっとしたお買い物をしましょう。ね? ノアちゃんも久しぶりでしょ」
カルエゴは特に何も言わなかったが、リリィの横に立って腕を組み、
「行くぞ」とだけ短く言った。
こうして、3人は魔界の都心部にあるショッピングエリアへと足を運んだ。
昼過ぎの街はにぎやかで、魔界らしい奇抜なファッションや、賑わう屋台の声が響いている。
初めこそ少し人目を気にしていたが、リリィが手を引いて歩き出すと、自然と視線が前を向いていった。
「ノアちゃん、欲しいものは?」
「んー特に、ない」
「えぇ~、それじゃ今日の意味がないじゃない」
リリィがちょっとだけ頬を膨らませる。
そのやり取りに、カルエゴが無言のまま、隣のショップの服に視線を移した。
「……ノア」
それは、ふわりとしたシルエットの白いワンピース。
肩が少し開いていて、清楚な中に柔らかさがあるデザインだった。
「…可愛い、けど……」
「試着だけでもしてみたら?」
リリィに背を押され、しぶしぶ更衣室へ。
出てきたノアを見て、リリィはぱっと顔を輝かせた。
「うわぁ…!すっごく似合います!ね、カルエゴ様!」
カルエゴはじっとノアを見たあと、短く言った。
「…悪くない」
「ほんとに?」
「……少し、着慣れていないだけだ」
そう言いながらカルエゴは別の色違いを手に取り、さらに数着同じ系統の服を店員に渡した。
「これも包んでおけ。あと、同じサイズで色違いを3つ」
「ちょ、ちょっと…そんなにいらない……!」
慌てて止めようとするも、リリィは楽しげに笑って言った。
「たまにはいいのよ。ね? ほら、次は靴も見ましょ?」
結局、ノアはその日だけで両手に抱えきれないほどの服や小物を買ってもらうことになった。
最後にはアイスクリームを手にベンチで一休み。
ノアは小さく溜息をつきながら、アイスを一口。
「……贅沢しすぎた、かも」
「それが普通になればいい」
カルエゴが静かに言った。
「…普通?」
「そうだ。お前が“今を生きている”という証だ」
その言葉に、少し目を見開いたあと
そっと、アイスを口に運びながら呟いた
「……じゃあ、たまには……こういうのも……好きかも」
「それでいいのよ。もっと頼ってね、ノアちゃん」
リリィが笑って言うと、ノアは照れ隠しのようにふっと目を逸らした。
温かな午後の陽ざしの中で、ノアは確かに、少しずつ“日常”という贅沢を手にしていた。
そして……
夏の終わりを感じさせる風が、カルエゴ邸のカーテンをやさしく揺らしていた。
ノアの部屋には、制服や文具、整えられたカバン。
ベッドの上には、新しく買ってもらった筆箱と、少し派手なヘアアクセサリーが並んでいる。
床に座って、明日の持ち物チェックをしていた。
「教科書よし、ノートもよし、筆記具も……
あ、これリリィにもらったメモ帳。入れとこう」
声に出して確認する様子は、以前の彼女とは違いどこか楽しそうだった。
部屋のドアがノックされ、開いた。
「様子を見に来ただけだ」
カルエゴが半分だけ顔を覗かせる。顔を上げてにこっと笑った。
「うん、大丈夫。ほとんど準備終わったよ。あとは明日の朝、忘れ物しないようにするだけ」
「そうか。妙に張り切っているようだな」
「ちょっとだけ……楽しみなんだ。アズくんやクララたちにも会えるし、新しい授業も気になるし」
カルエゴが部屋の中に入ってくると、ノアは制服の襟元を指でつまんで、照れたように言った。
「ねぇ、これ……変じゃない? スカートの長さとか」
「似合っている」
即答されて、一瞬きょとんとしたあと、頬を赤らめた。
「…そっか。ありがとう」
カルエゴは棚の上の整然と並んだ道具に目をやる。
「お前が自分でこうして準備をするのも、初めてだな」
「うん。でも、そういうのって、ちょっと楽しいかも。私、ちゃんと“生徒”になってるんだなって思えるから」
その言葉に、カルエゴの目がふっとやさしく細まる。
「明日、初日の朝だ。遅刻は許さん」
「うん、絶対ちゃんと起きる。目覚まし三つかけたし」
「起こしに行ってやってもいい」
その言葉にノアは顔を赤くして笑った。
「えっ、そんなの……恥ずかしいよ。っていうか、リリィが先に来ちゃうでしょ」
「先に行くと伝えておく」
「もー……!」
頬を膨らませながら、笑い声をこぼす。
カバンのファスナーを閉じて、立ち上がった。
「準備、完了! 明日はきっと、いい日になるよね」
カルエゴはそんな彼女を見つめながら、静かにうなずいた。
「ならば、それを信じろ。お前が選んだ日々だ」
「うん、信じてみる」
晴れやかな顔でそう答えた。
部屋の窓から見える夕焼けが、明日の始まりを祝福するかのように、柔らかく差し込んでいた。