蕾は黒に見守られ花開く
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「終末日もう終わっちゃうじゃないですか!!」
朝食の席で、リリィの絶叫がダイニングに響いた。
パンを口に運ぼうとしていたノアが手を止め、隣のカルエゴはゆっくりと新聞を下ろす。
「急に何だ、うるさい」
「うるさくて当然です!ノアちゃんが帰ってカルエゴ様が取り調べ終わって落ち着いたのに!なんにも“思い出”らしいことしてませんよ」
「……騒がしいな……」
カルエゴは呆れたように眉をひそめるが、ノアの唇がくすっと緩む。
「…じゃあ、プールに、行く?」
「行く!行きます!今日!今からっ!!」
そのテンションの高さに、思わず目を見開く。
「じゃあ…庭のプール、使えるかな」
「準備してきますっ!!」
言い終えるより早く、リリィはダッシュで部屋を飛び出していた。
「……ふふ」
ノアの笑い声が、小さく部屋に残る。
カルエゴは一息ついて立ち上がった。
「お前も準備してこい。……無理にとは言わん」
「うん。ちょっと楽しみかも」
ほんの少しだけ、照れたように微笑むノアに、カルエゴもわずかに目を細めた。
午後。庭に設置されたプールは、陽の光を浴びてきらきらと水面を揺らしていた。
先に着替えたノアは、そっと日陰から顔を出す。
「……えっと……」
ふわふわとした薄い水色のビキニに、フリルが控えめに揺れている。
普段の引き締まった印象とは違い、どこか柔らかく、年相応の少女の姿。
それを目にしたカルエゴは、一瞬だけ視線を逸らした。
「……なんだ、その格好は」
「えっ…あ、似合ってなかった……?」
「いや、…そういうことではない。……ただ、見慣れていないだけだ」
珍しくどもるように言ったその言葉に、ノアの頬がぽっと赤く染まる。
「…カルエゴのほうこそ……その、水着……」
カルエゴは黒のシンプルな水着の上に、前を開けた半袖のシャツを羽織っていた。
露出は控えめだが、鍛えられた胸元や腕がちらりと覗く。
「……お前が言うな。目を逸らすな」
「う、うるさい…」
ふたりが互いにそっぽを向いて赤くなっているところへ、
「ふたりとも!!準備は万端ですかー!」
鮮やかな浮き輪を抱えてリリィが登場した。
「さあっ!ノアちゃん、いくよ!」
「えっ、えっ、ちょっ」
そのまま引きずりこまれ、水音が上がる。
「冷たっ!?わ、でも気持ちいい……!」
ぱしゃぱしゃと水しぶきが上がり、リリィはノアの髪に水をかけてくすくす笑う。
その様子を、プールサイドの椅子に座ったカルエゴが静かに見つめていた。
ノアは、ちらりと彼の方を見る。
さっきの言葉を思い出して、自然と笑みが浮かぶ。
「ねえ、カルエゴも入ったら?」
「遠慮しておこう。……見ているだけで十分だ」
その言葉に、ノアの頬がまたほんの少しだけ赤く染まった。
夏の午後、青い空と揺れる水面。
プールから響く笑い声と、互いを想う気持ちが、静かに満ちていた。
***
夕暮れが庭を優しく染めるころ、プールサイドの喧騒もやや落ち着き始めていた。
リリィはタオルとフルーツジュースを手に、片付けのため一度屋敷へ。
その間、ノアはビーチベッドにタオルを羽織ったまま横になり、そっとまぶたを閉じていた。
涼やかな風。肌に残る水の感触。
そして、安堵したような寝息。
カルエゴは、静かに彼女のもとへ歩み寄った。
「……寝たか」
その頬はまだほんのり赤く、微かに唇を開いて、夢の中にいる。
「……風邪を引くぞ」
ぽそりとそう呟き、カルエゴはタオルを一度外し、用意していた自身の新しいシャツを肩からかける。
少し大きめのサイズが、ノアの華奢な体をすっぽりと包み込んだ。
冷たくなった足元に軽くバスタオルをかけると、彼は慎重に抱き上げる。
ほんの少し重心が傾いた瞬間、ノアが寝ぼけたように身を寄せてきた。
「……ぅん……」
抱き上げられたまま、静かに落ち着いていくその身体。
屋敷の廊下を進み、ノアの部屋の扉を開ける。
ふかふかのベッドにそっと降ろし、シャツの前を整えて、毛布をかけてやる。
やれやれと立ち上がりかけたその時だった。
「……っ」
ぴくり、と指先に小さな力。
カルエゴの服の裾を、ノアが寝たままの手でぎゅっと掴んでいた。
「……ノア?」
反応はない。けれど、緩められる気配もなく、指はしっかりと布を握っている。
まるで「行かないで」と言っているように。
カルエゴはしばらくその手を見つめ、ため息をひとつ。
「……仕方ないな」
静かにベッドの端へ腰を下ろし、服を掴んだノアの手を、そっと握り返した。
寝息が少し落ち着き、ノアの唇がわずかに緩む。
カルエゴはゆっくりと背を倒し、視線を天井に向ける。
「…まったく、無防備にも程がある」
それでも、彼の声に怒気はない。
ただ静かに、夏の夜が二人を包んでいく。
ノアの手は、最後までカルエゴの服を離すことなく。
そのまま二人は、同じ夢の中へ落ちていった。