蕾は黒に見守られ花開く
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カルエゴの腕に抱かれたまま、再びあの場所へと帰ってきた。
かつて自分が“始末”したはずの対象
女たちや子供たちが隠され、守られていた施設
夜が明ける直前の空の下
ひっそりと建つその場所の灯りは
彼女の中の凍ったものを優しく溶かし始めていた
門が開かれる。
その先に懐かしい顔があった。
「あ……ノア……!」
駆け寄ってきたのは、小さな少女だった。
あの夜、施設の奥で怯えていた子。
助けられ、ここで生き延びていた子。
「…生きてた…本当に……生きてたんだ……っ」
ノアは、震える手を伸ばした。
少女が抱きついてきた瞬間、崩れるようにその場に膝をつく。
「……よかった……よかった……っ」
張りつめていたすべてが、そこで崩れた。
怒りも、恐れも、絶望もすべての感情が涙となって溢れ出す。
「ごめんね…怖かったよね……ごめんね…!」
「ノア、ノアだよね……?また会えるなんて思わなかった……!」
他の対象たちも、次々と現れた。
かつてノアが「殺すはずだった」少女や女性たち。
誰もが、ノアの姿を見て驚き、そして彼女を、抱きしめた。
「ありがとう、助けてくれて……ありがとうお姉ちゃん…」
「あなたのおかげで、今も生きてる……」
抱きしめられるたび、ノアの心が軋む。
ずっと殺してきたと思っていた命が、ちゃんと生きて、笑っている。
「助けられて、よかった…っ私、よかった…!」
もう声にならないほどに泣いた。
長く長く、誰にも許されないと思っていた罪が、わずかでも報われた気がした。
カルエゴは、少し離れた場所からその光景を見ていた。
何も言わず、ただ静かにノアの涙を見守っていた。
けれど、それだけでは終わらなかった。
***
尋問室の中。
ノアは背筋を正し、真正面から魔官たちの視線を受け止めていた。
その表情は強張っていた。
けれど、目だけはまっすぐだった。怯えても、逸らしはしなかった。
「私は、誰も殺していません」
静かに、けれどはっきりと発せられた言葉に、室内の空気がピンと張る。
向かいの尋問官のひとり冷徹そうな壮年の魔官が手元の記録を荒々しく机に叩きつけた。
「ふざけるなッ!」
声が鋭く響き、ノアの前に積まれた報告書の山が震える。
「ではこれは何だ!? 貴族の娘が忽然と姿を消し、血の跡だけが残されていた。
政治家の娘の髪を切り落とした証拠品も、現場に残っていた!
目撃情報も、お前の姿を示している!」
「それでも、私は…」
ノアは小さく唇を噛んだ。
「私は…本当に、誰も殺していません。
全部、助けようとして……私なりに……!」
声が震える。
だが、涙は流さなかった。泣いても、意味がないことを知っているから。
「証拠はあるのか? “助けた”というなら、その命はどこにある!?」
魔官が詰め寄る。肩が小さく震えた。
証拠はない。
保護した者たちは、匿うための施設に移され、完全に隠されている。
今ここでそれを口にすれば、命の危険に晒すことになる。
それだけは、できなかった。
「……答えられないのか。つまりは“嘘”だ。
君がこの期に及んでまで罪を否定するとは、失望した」
その言葉が、胸に突き刺さる。
言い返したい。だけど、守らなければいけない人がいるだから口を閉ざす。
「やはりただの、兵器だったな」
「それ以上、口を開けば“名誉毀損”で訴えるぞ」
低く、しかし凍てつくような威圧と共に声が飛んだ。
扉が静かに開かれ、黒いマントを揺らしてカルエゴが歩み入る。
「カルエゴ卿……これは公的な尋問だ。関係者以外の立ち入りは」
「俺は関係者だ。ノアの直属監察官として、すべての任務を監視していた」
「な……に?」
カルエゴは無言で懐から分厚い封筒を取り出し、机の上に叩きつけた。
中から滑り落ちたのは、護送記録、保護者名簿、潜伏先の魔官署承認文書、そして一枚の映像魔石。
光が走る。
そこに映っていたのは、養護施設で笑う子供たち。
泣いていた少女を抱きしめる女性。
そして、ノアがその場に静かに立つ姿
「これが、“殺した”とされる者たちだ」
カルエゴの声は、怒りを抑え込んだ低音で響く。
「彼女は命令通り“殺した”ふりをして、その実、命を助けていた。
自らの正体がバレるリスクも顧みず、ただ罪のない者たちを守っていた」
沈黙が落ちる。
ノアは、その場に立ち尽くしていた。
カルエゴは彼女の隣に立ち、厳しく魔官たちを見据える。
「証言する。彼女のすべての任務行動は、“非公開スパイ活動”に基づくものだった。
そのことを、ここに記録させてもらう」
「しかし、そんな命令は」
「ある。“俺が出した”」
誰にも逆らえない、魔界最高機関の魔官その宣言に、尋問官は何も言い返せなかった。
部屋から出た時
ノアが小さく崩れるように、膝をついた。
「どうして……そこまで……」
「勝手に一人で終わらせようとするな。
何度でも言ってやるお前は、俺が守ると決めた女だ」
震える手に、カルエゴの手が重なる。
強く、優しく。
その体温に、ノアの心がやっと、泣い