夏の二人


 手元のプレイヤーから、聞き覚えのある音楽が耳に流れ込んで来て、思わず電源を落とした。
 胸の奥がざわつくような、胸焼けにも似た気分を催し、眉を顰める。
 その時、がたがたと窓ガラスが音を立てたのに気が付く。立ち上がり、窓を開けた。直後、飛沫のような小雨が顔面を打ったかと思えば、
「つめてっ」
 窓上部の庇を伝った雨粒が、頭に流れ落ちてきた。
 徐々に粒を大きくし、激しい音と共に粒は肥大していく。窓の外に見える地面はみるみるうちに黒塗りにされたように色濃く染め上げられる。
 ゴロゴロと、不穏な音までもが空から唸り声を上げ始めた。
「……あいつ、ちゃんと宿題やってんのかな」
 さっきまで一緒に居た友人のことを思い浮かべる。
 いつものように向こうの家で共に夕飯を済ませて、宿題をするからと別れて帰宅したのだ。 背にした窓の向こうで、大きくフラッシュを焚いたように瞬いた気がして首を捻り振り返る。直後、割れるような鋭い重い音が鳴り響いて足下をわずかに揺らした。
 思わず、たたらを踏んで窓から距離を取る。
 リビングに向かおうと部屋の扉を開けて廊下のスイッチに手を伸ばした時、背後で部屋の電気が落ちた。
 指先に触れたスイッチは音を立てるが、視界は暗幕が落ちたまま。ブレーカーが落ちた時みたいだ、と思った。
 手探りで玄関に向かい、靴箱に仕舞ってある懐中電灯を手にして胸を撫で下ろす。静かな家の中、手元の明かりで照らした廊下は、外から聞こえる雨の音に相俟って不気味に思えた。
「あいつ、大丈夫かな」
 暗闇に背を向け、靴を履く。玄関を開けて、外の階段を下りる。
 不思議と、どことなくだけれども、外の方が闇が和らぐように思える。
 その時、下から階段を昇ってくる誰かとぶつかりそうになる。その人影を確認して、ふっと、息をついた。

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