夏の二人


「駆! 今日水泳?」
 ばたばたと音を立てて走ってきたクラスメイトの数人が、席を囲む。小学校の頃から親しくしている奴らだった。
 無い。と首を振って見せると一斉に沸き立つ。
「じゃあ遊ぼうぜ! 歩武にも声かけといてくれよ」
 それだけを言うと、返答も待たずにさっさと席に戻っていく。一人が振り返って手を振った。
 帰りのホームルームが終わり、帰路につく。帰る途中で友人と合流すると、真っ先にその話になった。
「帰る前に言われたんだけど、あいつらが久しぶりに遊ぼうってさ」
「ん? へえ、久しぶりじゃん! 何すんだろ」
「どうせザリガニ釣りか、川釣りだろ」
「違いない」
 友人は俺の返答に笑って、続ける。
「あのでっかいザリガニまだいんのかな」
「何年前の話だと思ってんだよ」
 思い返すと、ザリガニや田畑の脇で虫を捕ることだけが俺たちにできる最善で最良の遊びだったような気がする。川遊びや山に入るのは禁止されていたから。
「どうした?」
 不意に立ち止まった俺を、友人は振り返る。
「……いや、流行ってたよなって。ザリガニ」
 そう口走ってから、『ザリガニが流行る』ってなんだよ。と脳内で自分にツッコミを入れた。
「流行ってた……」
 不思議そうな物言いで繰り返すように友人は呟くように言う。そして、笑った。
「ザリガニ、流行ってた!」
 繰り返すように言って、笑い出す。釣られて、俺も笑った。妙なツボに入ったみたいに笑い転げながら、階段を上がって、途中で一旦別れる。
 制服から着替えて釣り竿を手にして、サンダルに履き替えた。
「早いな。行こうぜ」
 階段を下りてすぐに、上から足音と共に声が降ってくる。友人の方も、おおむね同じような格好だ。バケツを下げている。
「駆はザリガニと魚どっちがいい?」
「魚。夕飯が一品増やせる」
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