夏の二人


「あ、ほら! 今流れた!」
「嘘!?」
 指された方向には濃紺。その上に、点々と散る光の粒。うっすらとした、灰色の靄がゆったりと浮上している。
「どこだよ」
「お前また見てなかったの? あっほら、また!!」
 ばんばんと俺の肩を叩き、隣で声を弾ませる友人に顔を顰める。頬を膨らませてみるが、こちらを見向きもしない。
 上に向けられたひとさし指の先はさっき見上げた時のまま。何の変化もない。
 嘘っていうか、適当なこと言ってんじゃないのか。なんて疑惑を抱きながら、スマホを取り出す。震えた気がして、ちらと時計を確認した。
「っつーかなんでスマホ見てんだよ。空見ろ空。流星群だぞ」
 目線を夜空に向けたまま、友人は俺に文句を投げつける。
 別に、スマホを眺めていたわけじゃないけど、という言葉は飲み込む。
「俺は、お前と違って願い事なんてねぇの」
「ふうん。……じゃ、なんで付き合ってくれてんの」
 急に声のトーンを落とすから、内心たじろぐ。けど、おくびにも出さない。
「別に。珍しいモン見たさだよ」
 真っ黒なスマホの画面を顔に近づけながら、隣で横たわる友人の顔を覗き見る。真剣な眼差しで空を睨み付ける横顔を。
 その視線に入り込む余地は、ない。
 ずっと、よそ見をしている俺とは違う。
 流れ星になんて興味はない。あるとするなら、この場所だった。
 ずっと真面目に見上げていなかった空に、目を向ける。
 その時偶然にも、視界を横切るようにして一筋の光が流れた。
 あっという間のことだったから、目を見張って、息をつく。
 祈る暇が無くてよかった。
「見たか?」
「うん」
1/19ページ
    スキ