2009年に書いたSS

 枯葉をかき集めた上に彼女を呼び出して、親友と一緒に火を点ける。
 あっという間に燃え上がった炎の中で、それでも二人は始終笑顔のままだった。そして、言葉はおろか目線すらも、一度もこちらに向けることはなかった。
 二人が炎の中に消えて逝くのを、俺はただ静かに待っている。
 けれど、いつまで経っても二人の影は炎の中に消えたりはせず、灰にもならない。それどころか、二人の形をした影と笑い声だけが響いてきて、どんどん大きくなっていく。
 俺は思わず耳を、目を塞いだ。だが、それでも耳の奥に木霊して消えない声と、瞼の裏に張り付いたように取れない影に耐えられず、燃え盛る炎の中の二人に背を向ける。


 ――目が覚めた瞬間、我に返って思わず自嘲を浮かべた。
 なんて浅ましい、愚かな夢だろうかと。そして、なんて浅ましい愚かな想いを自分は持っているのか、と。俺自身も知らない意識の奥底で、俺は願っているのだろうか。彼女と親友を燃やしてしまいたいと。
 やや汗ばんだ拳を握り締めて思い返す。好きな人ができたから別れて欲しいと、彼女から告げられたのは二週間前のこと。その相手は俺の幼馴染でもあり親友だった。彼女との付き合いは、親友ほどではないが、短くなかっただけに酷く落ち込んだ。今も吹っ切れたとは言えない。恨んでいない、といえば嘘になるだろう。
 教室で楽しそうな二人を見かければ、悔しさと切なさと同時に浮かび上がる何かがある。――そう、いっそ燃やしてしまえたらいい。二人に対する気持ちも、こんな思いにさせる二人の存在も。
 それから何日かに一度、同じ夢を見るようになった。見るたびに、以前は目もくれなかった半年以上も前に彼女が置いて行った煙草をふかすようになった。
 日に日に、夢を見る頻度が増えてきたけれど、煙草をふかすことでやり過ごした。
 気づけば、息を吸い上げる度にじりじりと煙草が灰になっていくのを見ているのが楽しく思えてくるのだ。こうやって徐々に、ゆっくりと燃やしていけばいい、そう思った。
 そうして彼女が置いて行ったカートンの中から、一箱、また一箱と消えて行く。
 ある日、煙草の火を点けるついでに、気まぐれで昔彼女がくれた手紙を一枚火にかけてみた。それからは毎日、手紙や一緒に撮った写真を燃やすようになる。親友と写っている昔の写真や、もらった本やノートも全部燃やしてしまおうと思った。やがて、一枚ずつ燃やすのがまどろっこしくなって、公園で山積みにした思い出たちに火を点けることにした。そうしよう、と決めてしまうと物を燃やす回数が減った。気分が楽になって、夢を見る回数が減った。同時に煙草を吸う回数も。だが、減らない煙草の本数を確認した日は必ず夢を見た。
 いざそうしようと決めてから、行動に踏み切れずに日だけが過ぎた。

 その日、不意にカートンの中身が半分以上残っているのを確認して思い立った。燃やすものをまとめたものとカートンを手にすると部屋を出て、近くの公園で持っていた物全てに火を点けた。不思議と未練は感じなかった。
 思い出に回っていく火を見つめながら、もうこれで夢はみない。そう思った。
 
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