まさか先を越されるなんてね
いつか別れが来ると知っていた。
求婚し、されて番になり、子を無し血を繋いでいくことを良しとするだけの生き物。
同じ「生」を持ち、違う「種」に産まれただけ。
「やあ、元気かい」
朝になるとそう言って窓を開けて、彼は私を迎えてくれる。
夕刻なんとなく帰りそびれた私を見つけると部屋に入れてくれた。一緒に寝たこともある。
私が小さかった頃、怪我をした私を手当てしてくれた彼はまだ少年の色を残していた。
小さかった私が大きくなったように、彼もすっかり男性になったけど、私にとって彼は彼のままだ。
その隣に誰がいても。私じゃなくても。
貴方の住む部屋の窓辺で歌えれば、それでいい。
願わくは彼の側で眠れたらいい。暖かい掌の上で看取って欲しい。
どうしても彼の側にいたくて、仲間からは批難を受け、群れからは追放された。
私は、もう永くない。だからいいのと言った時、最後まで引き止めてくれた友は寂しそうな顔をしてくれた。
その表情を思い浮かべると、昨日は動かなかった体が動かせた。
一目だけでも、姿を見たい。
その朝は凍えるほど冷たい風が吹いていた。
白い礫が灰色の空からゆらゆらと漂うのを彼の家の屋根から眺める。
彼は気付いてくれるだろうか。悲しんでくれるだろうか。思い出してくれるだろうか。
部屋の中を覗き込む。
コツン、
と小さく音を立ててみる。
それ以上は凍えて力が出なかった。
窓の向こうのベッドで、青白い顔色をした彼は目を閉じている。
――珍しいね、ねぼすけさんなんて。
そう、小さく鳴いて目を閉じた。