その願いで咲く花は



 目深に被った帽子の下で、大きく息を繰り返す。
 傍にいる人には気付かれないように、浅く、浅く、深く。
 檻の中に居た私に手を伸ばしてくれた人。
 この人の傍でなら、呼吸ができる気がしていた。
 空も飛べるような心地がしたのに。
 思い切って飛び出して、知ってしまった。気付いてしまったの。
 私がいたのは水槽だった。
 私は魚で、水がないと生きていけないことに。

 それでも、
「私、人でいたいの」
 伸ばした手を、握り返してくれたものは、同じとは思えないほど温かい。
 一緒に居られたら良かった。
 ずっと隣に居たかったと切に願いながら、貴方に贈る花を探す。
 私の願いを託す、あの人に。
 私という罪を背負わせる、あの人に。
 どうかどうか、赤い花をつけてと願いながら。

「さようなら、好きだったわ」

 決して言葉にはできないけれど、
 ごめんなさい。

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