マストドン小説
「お腹が空いてるの」
彼女が呟いたので、僕はポケットから飴玉を取り出す。
人形のような表情で、暗い瞳が差し出したそれに一瞥をくれる。
つまらなさげに顔を背けて、要らない。と吐き捨てた。
彼女が受け取らなかった飴玉を僕は口に放り込む。
「食べたいと思っていたものを目の前で食べられる気持ちって、今の君にわかるかしら」
ちらりと視線を送られて、僕は口の中の飴玉をうまく舐められない。
静まり返った教室の空気を、開かれたドアの音が破る。僕はそのドアから覗く顔を見て、胸を撫で下ろす。
「じゃあ、"彼女"と帰るからまた明日ね」
親しい同級生に初めて出来た恋人の報告も終えた僕は、立ち上がる。
彼女の機嫌が悪いのは残念だったけれど、足しになればと再度取り出した飴玉を、去り際に彼女の机に置いた。