図書館 Thought cemetery


 乾いた紙の薫り。少し埃っぽい空気。
 一歩足を踏み入れた直後の静謐。すれ違うのもやっとの通路。
 閉じ込められたような、息苦しささえ感じる空間。
 時折聞こえるキーボードを叩く受付の声。
 擦れた音。小さな足音。
 崩れたら埋もれてしまう、見上げれば目眩のする棚。並ぶ背表紙。
 見慣れないタイトル。見知らぬ名前
 いつかの誰かの轍に、四方八方を囲まれる瞬間。
 ここは墓場だ。
 知りもしない誰かが残そうとした軌跡の形たち。
 報われた文字の終着地点。誰かの始まり。
 よれた表紙。剥がれ掛けの目次。変色して千切れそうなページ。
 手に残る、かさかさとベタつく古びた感触。
 普段は目もくれない分厚い草紙。
 高く、ぎっしりと詰まった残留思念に圧死されながら目を閉じる。
 地震が起きて崩れれば、押し潰され埋もれてしまうだろう。
 この中で息絶えたい。それを望みながら、何処かで悔やむのだ。
 この場には自分の場所はない。
 弾かれた自分。埋葬を赦されない思念。
 当然を確認し、焦燥感を埋めるために誰かの想いを積み上げる。
 積み上げて、崩しては、ひとつひとつに触れてはなぞる。
 なぞりながら、密やかに、秘めごとを静寂へと織り交ぜる。
 少しづつ、一文字ずつ、誰にも言えない記録を綴る。
 そうして、自分の墓標を立ててゆく。
 願いと共に。希望と共に。

 いつかの誰かの墓参を待ち望みながら。焦がれながら。
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