三題噺

 中学に入学する前から仲のよかった友達がいた。部活はその子と一緒に家庭科部を選んだ。
 私は縫い物があまり好きじゃない。友達も同じだ。
 でも、活動の基本は縫い物ばかり。いつしか慣れてうまくもなった。
 文化祭で大きなテディベアに挑戦したりもした。部活動の時間だけでは足らず家に持ち帰り、寝る間も惜しんで仕上げる程に熱中した。友達も私と同じだった。朝の通学路で完成品を見せ合い、お互いの目元を見て笑う。
 そんな風に私達は三年生になった。
 部では友達が部長。私は副部長を任された。
 今日は新入生が入って初めての調理実習。
 友達はとても張り切り、朝からそわそわしていた。
 料理上手なお母さんから教わった技術を披露したくて仕方がないのだろう。
 てきぱきと下級生を引っ張ってくれる。私にも、
「ほら、ぼーっとしてないで2年生とおにぎり握って」
 なんて指示が飛んで来た。肩を竦めて返事を返して指示に従う。
 料理の完成も近くなった時、材料が足りないことに気付く。新入生の子が味噌を忘れたらしい。
 友達は自分が買いに行くと言って、学校を飛び出す。顧問がその後を追った。
 残された私は下級生に指示をしながら、他の調理を進めていく。
 味付けでは友達に敵わない私は、仕上げには少し自信がなかった。
 顧問と友達は中々戻ってこない。
 突然、調理室に誰かが飛び込んで来る。
「車が友達に突っ込んだ!」
 同級生の声だった。
 その声を聞いて、下級生達は調理室で悲鳴をあげる。2年生は教室を飛び出していく。現場はすぐ近くのようだ。
 仕上げの味付けを頼もうと思っていた鍋をかき混ぜながら、調味料を入れる。
 そのすぐ耳元で友達の声がした。
「それじゃあ肉じゃがが辛いよ」
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