夏の二人


 地に足のつかない高揚感と、武者震いを覚える感覚。見慣れない景色と相俟って、わくわくと心が躍るような気持ちが止まらなかった。
 夜の明かりを見下ろすようにしながら、走る車。
 流れるように過ぎ去って行く回りの景色。それは川で流れて行く時にも少し似ていて、でも結構違う。
 木々ばかりの中を抜けて来た先に、あんなにたくさんの明かりが存在することに、驚いた。
 夜空を見上げて見る星の輝きよりももっと強く、近い。
 さすがに声を出してはしゃいだりはしないけれど、隣に座る幼馴染みに向かって大声で何か言いたい気持ちは収まらない。それをしないでいられるのは、運転席に普段は会うことの少ない幼馴染みの父親が座っているからに他ならない。
「――落ち着けって。何もうできあがってんだよ」
「だってさ!!」
 肘で小突かれて、思わず声を上げる。
「わかったから落ち着けよ。大会は明後日なんだぞ」
「だーから! わかってるって。だから今晩から会場近くで泊まって、コンディション整えておくんだろ。駆のお父さん、本当にありがとうございます!」」
 運転席へと声を張り上げると、口元に笑みを浮かべるのがわかる。隣からは「何度目だよ」とこれみよがしの溜息が聞こえてくるが、何度だって言いたいのだから、仕方がない。
「けど、本当によかったのか? 明日もプールで」
 彼の父親が残念そうに問う。俺は大きく頷き、幼馴染みは「それも何度目だよ」と更に呆れ声で呟く。
「駆! スライダー制覇しような!」
「はしゃいでもいいけど、大会に響かない程度にしとけよ」
「任せろ」
「はは、頼もしいな」
 俺と幼馴染みのやりとりを笑いながら、車は少し速度を落とし、大きな駐車場へと停車した。
「それじゃ、英気を養うためにもたくさん食っとかないとな」
 その言葉に、浮かれるなと言う方が無理な話だろう。
 車のドアが開いた瞬間、俺は勢いよく隣の腕を掴んだ。
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