夏の二人
雨風が酷く吹き荒れる夜の、一瞬のことだった。
「うわっ」
俺は自室で、学校から出された夏休みの宿題と格闘――するはずだった。実際はテレビ画面に向き合って格闘していた。
けれど、それもたった今、消えた。
消えたのは画面だけじゃない。電気も、スマホの充電のランプもだ。
幸い充電は終わっているが、つい今しがたまで冷たい風で部屋と俺を癒やしてくれていたエアコンの恩恵はない。夜だというのに、部屋の中が徐々に蒸されていくのを感じる。
窓を開けようかとも思ったが、外に出ることにした。
スマホの明かりを頼りに玄関を出る。通路の電気も外の外灯も消え、どの家の明かりも点いていない。
雨の音と強い風、少しだけざわつきを感じる集合住宅の通路を抜け、階段を昇ろうとしたところで上から降りてきた人とぶつかりそうになる。
「こんばんはー……って」
「すみませ……って、お前か。ちょうどそっちに」
「俺もお前んとこに」
そう言い合って、互いに顔を見合わせて笑う。当たり前のように引き返して、俺の部屋へと戻った。
「お前、宿題は?」
「やってたよ。ちょうど終わったとこ。お前は……やってなかったな」
幼馴染みの手にした明かりで、部屋が照らされる。真ん中には転がったままのゲーム機。隣から耳に入る呆れ混じりの溜息を聞くまでもない。呆れているのがわかる。
あははー、と乾いた笑みを漏らしながら、幼馴染みの両肩を押す。
「まあほらほら、俺お茶でも取ってくるから、待ってて」
そう言って踵を返そうとして、つんのめる。
「おい、あぶねぇって」
幼馴染みが言うよりも早く、互いの足がもつれた。揉み合うように転びそうになりながら、二人して壁にぶつかる。その瞬間、電気が流れた。
5/19ページ