夏の二人
蝉が転がる通学路。しゃがみ込むランドセル。道路の用水路に流されて行く死骸。これみよがしに置かれた、茶色の脱け殻。
懐かしさにも似た感情を抱きながら帰路を歩く。
足を止めそうになった俺を、パピコを咥えた友人は振り返った。
「今日、どっちだっけ」
「あー……俺んとこは仕事っつってたはず」
「じゃ、お前んちな」
放課後は幼少からの慣習で、どちらかの家に集まることになっている。
同じ団地に生まれ、年も性別も同じだったから、母親同士が自然と親しくなったからだ。母親同士が話し合って、仕事が休みの方に面倒を見てもらっていた。小学校も高学年になると、人の家で面倒を見てもらうような歳でもなくなり、母親の休みも減っていった。代わりに、親の居ない家の中で羽根を伸ばしている。
親もわかっていて、小学校を卒業してからは買い物や掃除などの家事雑用を条件に家の留守を任されている。
「お前、今日なに食いたい?」
「んー……焼きそば!」
ふむ。と記憶を巡らせてみる。
熟考して、戸棚の在庫を思い出した。
「りょーかい。UFOな」
「おい。――あ、俺一回家に戻ってから行くわ」
「おー。んじゃ、後でな」
片手を上げて別れ、俺はワンフロア分、階段を昇る。
鍵を開けて誰も居ない家に帰宅の挨拶を告げ、玄関を上がり冷蔵庫を開く。上に下に、野菜室を奥までチェックして、やっぱりなと小さくこぼす。
部屋に鞄を置きに行き、ついでに制服を脱いで着替え、手を洗っていると玄関が開く音が聞こえた。
「ただいま! キャベツと麺持ってきた。あと、これ昨日のお前の忘れ物な」
ツッコミを入れる間もなく、勢いよく飛び込んでくる言葉に、笑いが零れた。
「なんでうちに無いモンを知ってんだよ」
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