夏の二人
がたんがたん、と揺れる車内。
目の前にいる友人の短い髪が濡れているのは乾いていないだけなのか、それとも汗だろうか。
小さく細い束になって跳ねた部分が、電車の揺れに合わせて動く頭とは違う動きを見せている。エアコンの風のせいだ。
流れていく景色はどこまでも緑色と、青に彩られている。田畑と、高い空。黒い電線が遠く伸びていた。
掴まれたままの腕が熱を持っていて、電車の中は涼しいのに、その部分だけがあつい。
「聞いてなかったけど、どこに行くんだ?」
「いいとこだって」
にっかりと笑う友人に、呆れた方がいいのか、安心した方がいいのか、少し悩む。答える気のないことだけは、確かだった。呆れることにした。
「歩武……お前、電車の乗り方とか知ってたんだな」
「失礼だな?」
「それはどうも」
短い車両の一番前に二人して立ったままで、ぼんやりと景色を眺めている。
こんな風に、あっという間に過ぎ去っていく風景は、物珍しい。
「あ、腕。ずっと掴んだままだった」
悪い。と笑う友人に、別にいいのに。なんて思わず返しそうになって、口を噤む。
手が離れた途端、身の回りの空気全てが冷えていくみたいな心地がする。
頭を窓縁にぶつけるようにして置く。ガラスが太陽光で温かい。
「駆、眠い? 座るか?」
「んー……、いいや。座ったらマジで寝そう」
「それはわかる」
言いながら、友人も欠伸をひとつ。
「……なあ歩武」
くっつけた顔の表面から、がたんがたんと振動が伝わる。ゴオーと独特の音を立てて、電車はトンネルに入っていく。
「何?」
「電車、間に合ってよかったな」
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