夏の二人
「お前、いつからここにいたんだ? 風邪引くぞ」
ホテルの大浴場。その露天風呂の脇にあるベンチに、友人の姿を見つける。
茹だるように火照った体には、心地の良い外気温。少し冷たいぐらいの風がちょうど良かった。
「いやさ~、風が気持ちよくって。もしかして、駆はずっとサウナに居たのか?」
「まさか。お前が出てった後すぐに出たよ。見当たんないから、部屋に帰ったのかと思った」
動く様子は見せないので、隣に腰を下ろす。
ずっと見上げている視線の先が気になって、同じように空を見上げてみた。
雲がかかった空。付きが雲の中でぼんやりと存在を主張している。
星は見えない。
「明日、か……」
ぽつりと漏らした声が、やけに弱々しい。
なぜだか妙に、それが意外だった。
俺は俺で、こいつに聞きたいことがあったはずだった。なのに、今聞くべきことではないように思えて、言葉を飲み込む。喉につっかえたように、胸の奥が少し重たくなった。
このまま黙っていると、決心が鈍りそうな木がして、立ち上がる。
「ほら。せっかく広い風呂なんだから、入ろうぜ。冷える」
早口で言って、目の前の岩風呂に足を向ける。
「おう」
背後で、続くようにして立ち上がった友人の気配を感じながら、湯へと足を突っ込んだ。
並んで座って、浸かる。
「あんまり熱くなくていいな」
「本当だ」
湯口から流れ出て立つ、小さな滝のような音を聞きながら、目を閉じる。
川の音に似ている。と思った。心地よくてそのまま眠ってしまいそうだなとぼんやり思う。「出たら何飲む?」
友人が問いかけてくる。
弾んだ声は、さっき感じた雰囲気とは打って変わっていた。
「俺フルーツ牛乳!」
「コーヒー牛乳」
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