溺れる鳥と飛びたい魚
自宅のアパートに戻った二人は、静かに食事をとった。
ヒタキが黙ったままなので、氷魚も何も聞こうとしなかったからだ。
食事を終えて、寝る支度をして布団に入ろうとした時、ヒタキが氷魚の袖を引いた。
「氷魚」
「…………ん?」
名前を呼ばれ、振り返るまでに、氷魚はわずかに迷った。
ヒタキが何か言いたいのだと察して。
不思議なこと、不安に似た感覚、――気になること。ないわけが、無い。
けれど、聞き出すようなことはしたくなかった。
話さなければならないと感じさせるみたいな、空気を作るようなことも。
振り返ったヒタキの瞳は、揺れていた。
「ヒタキ、――今日は休もう。何も、言わなくて良いから」
昨日までと同じように、二人で布団に入る。
「氷魚……?」
「明日。……明日、ヒタキが話せることだけ、話してくれることだけ、ちゃんと聞くから。明日にしよう」
氷魚はヒタキの手を強く握る。
ヒタキが海に帰れるように、と。
自分のところからいなくなっても構わない、と。
そう考えていたはずなのに、氷魚は迷っている。
ヒタキの瞼が落ちて行くのを見届けながら、本人の気持ちを聞く覚悟を固めようとしていた。
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