溺れる鳥と飛びたい魚


 横になったまま、うとうとと浅いまどろみを繰り返した。そうしてどのくらい経ったのか、氷魚は自らの空腹感によって覚醒する。
 服の裾の拘束は解かれていたが、拳は氷魚の手の中に収まっている。
 手を退かすのは簡単だ。けど、起こしてしまうかもしれない……と逡巡する。
「ん、……コマイ……?」
 ともかくと、身を起こそうとした時、ヒタキが薄目を開けて名前を呟いた。
 氷魚はそっと微笑みかける。
「おはよ。昼飯、食える?」
 ヒタキは氷魚を見上げたまま瞳を瞬かせる。氷魚はヒタキに微笑んで立ち上がる。そして、一度離したそれに、再度手を差し伸べた。

 簡単な昼食を済ませると、二人で少しだけ外に出ることにした。
 海沿いをのんびりと歩く。
 時折立ち止まりながら、沖を眺めて。たゆたうように、幾度も寄せては返す波頭を、数えるようにして。
 氷魚にはヒタキに聞きたいことがある。話したいこともある。
 けれど、それらは本当に必要なのか決めあぐねていた。
 ヒタキのことを知りたいという気持ちはある。
 きっと、質問攻めにすればヒタキは答えてくれるだろう。けれども、そうしたくはなかった。
 話したくないのならいいだろう。聞いたとしても―――、
「氷魚?」
 くい、と腕を引かれる。
 いつの間にか一歩前に進んだヒタキが、氷魚を不思議そうに見上げていた。
「もう、帰る?」
 氷魚は瞬いて、首を横に振る。
「いや、ちょっとぼーっとしてた。ヒタキは? まだ歩ける?」
 ヒタキはこくりと頷く。
「なら、少しだけそこの浜に降りようか」
 砂浜に降りながら、氷魚は思い出す。
 そういえばここか。と、遠い昔のような気持ちで。つい、一昨日のことであるというのに。 可笑しな心地だった。
「どうかしたの? 氷魚」
「いや……、海は不思議だなって思っただけ」
「?」
 ヒタキは小首を傾げる。
 氷魚も軽く首を振り、持ってきていたカメラを構える。
「たとえば――うまく言えないんだけど、いつでも違う表情が撮れる。そんな気がしてたから」
 言いながらシャッターを切った。
 そして、そのままレンズをヒタキに向けてみる。
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