Fishbowl with mirror surface


 青いばかりの中、ぼくらは存在していた。
 複数のぼくら。色んなぼくら。
 そこは、ぼくらがいっぱいで少しだけ息苦しかった。
 そんなある日、ぼくは、『ぼくら』の中からすくわれた。
 『ぼくら』から、『ぼく』になった。
 青い場所よりも狭く、だけど広い。息苦しさもない。
 ぼくは、

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 どこまで廻っても追ってくる、『ぼく』を見つめながら進む。
 『ぼく』とは新しい場所に来てから出逢った。
 『ぼくら』に似た。ぼくと同じ色の。
 ぼくが『ぼく』を見ると必ず向こうもぼくを見ている。
 だけど、『ぼく』に向かって進むと、必ず見えない壁にぶつかった。
 『ぼくら』とは違う。だけど、『ぼく』はいつもぼくのそばにいる。
 避けられることも、いじわるされることも、わざとぶつかられることも、文句を言われたり怒られたりすることもない。
 そのことにちょっとだけホッとする。
 けれど、ほんのちょっぴりだけ、さみしいような気もした。

 ぼくは、『ぼく』を眺めながら、

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる

 今日も、まわる。
 まわっているうちに、なんだか怒りが沸いてくる。
 目の前の、『ぼく』に。
 ぼくと同じことしかしない、『ぼく』に。
 おはなしもできない。
 文句をいうこともない。
 遊んでくれることもない。
 近くに来て、寄り添ってくれることもない。

 なんだか、息苦しくなってくる。
 この壁が。透明な壁がじゃまだ。
 ぼくは、壁に向かってぶつかっていく。
 そうすると、『ぼく』もおなじように壁にぶつかってくる。
 額と額がぶつかる。壁越しに。

 ああ、『ぼく』もおなじ気持ちなんだね。

 ぼくはゆっくりと浮かんでいく。
 壁の向こうにいる『ぼく』もおなじように浮かんできている。
 ぽっかりと開いた口から、ちいさく泡が漏れた。


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