得体のしれない終焉



 その衝撃は世界に轟き、俺達の生活をを脅かした。
 誰の想像をも超えるほどの遥か上空から。最新の科学を持ってしても観測の間に合わない速度と勢いで飛来した。
 大地に降り立った巨大な何かを、俺は見ていない。
 ただ、地面は揺らぎ、海は割れ、火山は噴火し、世界中を混乱へと導いた。
 それは複数降り立ったというが、そのどれも俺の身近では確認できなかった。
 できるのは、起こった災害の惨状と巨大な何かの影のようなもの。それに慌てふためきパニックを起こす人たちと世界中に空いた複数の穴の映像。そして、家のアパートの庭に入った、亀裂。
 亀裂は日々、大きくなっていくように思えた。
 近所の人達は、とうに逃げ出した。俺にも早く逃げろと言い残して。
 俺はアパートの二階の窓から、ただ毎日その亀裂を、広がっていくように見える深淵を覗き込む。
 なんとなく、その亀裂から何かが産まれるような気がした。この星を卵として。
 あるいは、その亀裂は口で、今いる生き物を飲み込むのかもしれない。
 そんなことを考えながら。
 産まれるにしろ、呑み込まれるにしろ、俺はそれを見届けたい気がした。
 いや、ただ動くのが面倒だっただけなのかもしれない。どっちもだと言うことにしよう。
 家の備蓄を少しずつすり減らしながら、亀裂を眺めて過ごす。
 見届けたい。そう思いながら、その穴が開ききるのなら真夜中がいい。なんて矛盾した願望は、夜布団の中で産まれた。
 街灯はつかない。つかなくなった。
 だから夜になると、外はよく見えない。
 窓から見下ろす庭は、それそのものが大きな穴のようだった。
 その暗黒に吸い込まれそうな気持ちを抑えながら、毎夜窓を閉める。
 いつか、アパートが傾いて足元から崩れるのが先か、自ら深淵に飛び込むのが先か。
 俺はどちらを選ぶだろう。
 選ばないほうがいい。だから、真夜中がいいのだ。
 結論に安堵の息をつきながら、眠りについては、明るくなってから目を覚ます。
 大きくなる穴は、開くごとに光が差し込み、中が見えてくるように思う。それはただの、地面の断面に過ぎず、俺はそこから目をそらす。
 その更に向こうの、暗がり。光の届かない深淵を見たくて、けれどもそこが見知った何かではあってほしくなかった。どこまでも暗い深遠であればあるほど、知らないなにかであればあるほどいい。そう思う。
 俺は初めて、アパートの庭に降り立ち、亀裂の際に手をついて中を覗き込んでみたいと思った。
 そこから、黒い何かが飛び出し、俺を飲み込むのを期待して。
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