消えた星空に浮かぶ
消えた星空に浮かぶ
浸水した部屋の中で、背中を水に浸して浮かんでいる。
高い位置にある天窓からは硝子越しに、夜の色が広がる。
ぽつぽつと振り出した小雨の粒が、窓を叩いていた。
その雫が部屋に灯したキャンドルの明かりに反射して、時折キラキラと輝いて見える。
不思議と、水は冷たくないから、寒くもない。
きっとそのうち、ボートで迎えが来る。
なんの根拠もないけど、そう思う。
さてしかし、いつまでこうしていられるだろう。
もうじきに、蠟燭が消えて、視界は暗くなるだろう。
天窓が少しずつ近くなるのを感じていた。
ああ、火が消えてしまった。せっかく、綺麗だったのに。
辺りは真っ暗になり、何も見えなくなった。
このままどこまで昇って行くだろう。
天窓まで届けば、あそこから抜けられるかなぁとか、それとも窓から注ぎ込まれる洪水が私を襲うのだろうかとか、そんなことを、思う。
部屋に押し寄せた水圧で開いたドアか、窓に向かって泳いで、外に出るのが、多分きっと、一番正しい。
私が想像しているボートも、このままだともうまもなく入れなくなるだろう。
波打つ水面に体を揺られながら、変わらず私は脱力している。なすすべなく。
焦りはない。心地も悪くない。このまま眠ってしまうことも、多分できるのではないだろうか。
目を閉じかけたとき、ランタンの灯りが近付いてくるのが、見えた。
ボートだ。
よかった。とわたしの中に、今の今まで心にもなかったはずの安堵が漏れた。
「大丈夫か!?」
ボートの上から声がして、手が差し伸べられる。
その手を掴もうとして、私の身体は大きく水の中に傾く。
伸ばした腕はボートに乗った救護員によって掴まれ、反対の手でボートの側面の片隅に小さな亀裂を入れる。
ボートが近くに来たとき、手に当たったものだった。割れた窓ガラスの破片だとは、皮膚に走った痛みでわかった。
ボートに突き刺し、そのまま水の中に捨てて、わたしは引き上げられるまま重量を取り戻す。
濡れた服が重く、外気はそれを冷やした。
やはりここは何処不自由だ。
つぷ、と横たわった背に感じるボートの感触が少しずつ変わっていくのを、楽しむことにしよう。
ゴールは転覆か、不自由な救いか。
これは賭け。
哀れで優しい救護員を巻き添えにして。
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