船の中



 目を覚ますと、船の中にいた。
 船かどうかは定かではない。身体に感じるわずかな振動と外の景色が動いているようなので、そう感じたに過ぎない。
 丸い、開きそうもない窓ガラスの向こうには暗い世界が存在しているように見える。
 塵とも破片ともつかない何かや、魚とも未知の生き物ともつかない何かが、時折通り過ぎていく。
 それ以外は、暗闇が果てしなく広がっているように見えた。
 丸いその窓は複数ある。その窓が、潜水艦を思わせる。だから僕は、ここを船だと感じているのだろう。
 実際のところ、潜水艦のようだとも、宇宙船のようだとも思う。もしかすると飛行船という可能性だってある。
 けれど、実際はそのどれでもないのかもしれない。
 潜水艦も、宇宙船も、飛行船にも乗ったことがないのだから。それがどれであろうと、どれでもないにせよ、僕には関係のないことだ。
 船内はざっと見る限りあまり広いとはいえず、お世辞にも豪華客船クルーズとは言えない。 しかし不思議と、恐怖心や不安のような感情は浮かんでこない。
 疑問だけは数知れないが、答えるものがいないから。きっと、考えても仕方がない。
 食糧や生活の心配がないわけではないが、息はできるし、お腹は空かない。空いていないというよりは、空く気がしないのだ。それがなぜなのかはわからない。
 わからないことだらけだ。
 けれど、それを問うても答えはない。
 ここには僕ひとりしかいないのだから。
 ぼうっと座り込み、壁にもたれ掛かりながら丸い窓を見上げて過ごす。
 ここが海底でも、宇宙でも、それ以外のどこかでも、判別はできないししても仕方のないことだ。
 ここには誰もおらず、誰も僕の疑問に答えてはくれない。
 ただ僕がここに居るだけだ。
 誰かがいれば、どうするべきだとか、何をしたらいいかだとか、そういったことを教えてくれるのかもしれないし、あるいは何かしてくれるのかもしれない。
 誰かは言うのだろう。待っていても仕方がないだとか、あれをしてみようだとか。
 けれども、僕にその意志はない。きっと、誰かがいたとしても。
 知りたいかと問う人も居なければ、問われる心配もない。
 悲観する必要すら、ない。
 どこに行くのかも知らないし、どこかへ向かっているのかどうかさえわからない。
 別に知りたくない、と思う。
 知ってしまえば、その理由と目的を求めてしまうから。理由と目的がわかれば、解決策を模索しなければならないから。
 それが僕の意志と反していたとしても。
 だから、知らないままでいい。
 今、ここに居る。
 それだけでいいと思うし、それすらもいらないのかもしれない。
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