真夜中のドライブ
ずいぶんと久しぶりな気がする。
道が平坦じゃないのか、がたがたと揺れる車体。ウトウトと頬杖をついていた頭が窓にぶつかり、小さく悲鳴を上げた。
「どこを走ってるの……?」
頭をさすりながら、運転する彼に問いかける。
「見ての通りだよ」
と彼の返事は短い。
左右の窓の外を見る。
カーブが多く、左右は木々に囲まれている。山道を登っているようだった。
外灯はなく、頼りはヘッドライトの明かりだけだ。
その明かりに照らされ、細く白く伸びる針葉樹の幹は遠く見えるものほど人間の四肢を思わせる。
木々の間には漆黒の闇が広がっている。
ブラックホール、深淵。そんな言葉が浮かぶ。闇は深い。
木々の向こうがどうなっているのか、間違って落ちればどうなるのか、そんなことを考えるとゾッとする。
車道は狭く、降りてくる対向車があれば譲り合うしかないだろう。
幸いにして、車が降りてくる気配はなかった。
私達を乗せた車はカーブを繰り返しながら登っていく。
やがて、車は少し開けた場所に出て、停車する。
彼が降りるようなので、私も降りてみることにする。彼について、少し森の中のような、足場の悪い階段を登る。すると、すぐにもうそこが頂上のようだった。
あまり広くはないが、木の柵の向こうには絶景とも言える輝く夜景が崖下に広がっている。
「綺麗ね」
などと呟きながら、内心とても意外に思っていた。
彼でもこんなところを知っていたのか、と。
知らぬ間にどこかで買ってきていたのか、まだ温かい缶コーヒーを手渡され、二人で白い息を吐きながら飲んだ。
穏やかな時の流れを感じ幸福に満たされていた。
空を見上げてみると、夜景の輝きほどではないが、普段は見られないほどの星が瞬いている。
いいドライブだった。
彼の手を取りながら元来た道を下り、駐車場へと戻り、車に乗り込む。
ガタガタと揺れる車内。
軽いハイキングのような散歩が効いたのか、次第に揺れは微睡みを誘う。
そんな視界の端を、影が横切った。
ハッと我に返り、通り過ぎたそれを振り返る。が、カーブを繰り返す暗い道で、はっきりと捉えることはできなかった。
こんな夜遅くに、こんな暗い山道だ。
通り過ぎた影は確かに人のように見えたけれど、そんな筈はないだろう。
少しうとうとしていたから、何かを見間違えたに違いない。
運転席の彼をちらりと見上げてみる。変わった様子はない。
彼は見なかったのだろう。
わざわざ確認はしなくてもいい。
「――ねぇ、さっきの場所にはよく来るの?」
「え? あ、いや……初めてだよ」
「そっか」
「でも、こんな山道だって知ってたら来なかったな」
運転は好きな彼だけど、やはりこの山道と暗さには思うところがあるのだろう。
助手席に座る私にはわからない苦労があるのかもしれない。
「じゃあ、今度は私が免許を取って運転するね」
「………うん、その時は昼間にしような」
そう言いながら、彼の目線はバックミラーを見つめている。
私も、その視線を追ってしまう。
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