やまないオト


 音が聞こえる。
 形容しがたい、嫌な音が。

 例えばそう、今日のように。
「お前、ほんっと不器用だな!!」
 クラスで一番声が大きく、運動も勉強もそつなくこなす、中心核のような生徒が声をあげた。
 彼が指差したのが、そう、僕だ。
 目聡いのか、僕がどんくさいのか。後者だろう。
 グラフの作成の時に、定規がズレてうまく黒板に線が引けなかった。
 いつかはもっと違う日。別の時は何かの作業中だった。工作のような。切ってはいけない画用紙を切ってしまったとか。
 音楽の時間に、音の外れた声を出した、とか。
 バスケの時間にパスされたボールが取れなかった時。
 そんな時。
 そうそれだけだ。
 ただそれだけだ。
 ただ、それだけのことを、彼はクラス中の笑いに変える。
 笑えないのは僕一人で。それでも僕も、みんなに溶け込めるように笑うしかない。
 心は乾き切っているというのに。
 羞恥に染まる身の内を知られないように渇いた笑いを浮かべる。

 耳元で羽音が聞こえる。
 ぷんぷんぷんぷん ぶんぶんぶんぶんぶんぶん
 まわっているみたいに、巡っているみたいに。
 自分の回りを。耳の回りを。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。

 不快だ。不愉快だ。嫌だ、嫌だと。
 笑われるようなことをするのが嫌だ。
 笑う奴は嫌だ。
 笑われる自分は嫌だ。
 だけどそう、嫌がっても、嫌がっても、ずっと、ずっと。

 でも、こんな音が聞こえることがもしも知られたら、また。

「ああもう、」

 疲れた、なぁ。
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