いないのはどっち
その子とは友達だった。
私が眠りにつくと現れて、一緒に遊ぶ友達。
一緒に遊ぶ時は、かならず少し危ないことができた。言い出すのは、いつも友達の方。
川に入って、真ん中の深いところで木のボートを浮かべて火をつけたりもした。
水の中だから火なんて点かないと言った私に、にんまりと笑った彼女は、ボートの先端に点いた火を見せて得意げだった。
慌てふためく私をよそに、真っ先に川の中へと飛び込んで手招きした。
燃え盛っていく炎。傾き、揺らぐ足場。
飛び込めないと泣きそうな私に、彼女が手を差し伸べて「大丈夫!」と叫ぶから、思い切って後に続く。
飛び込んだ私の手を彼女が取ってくれた。そのまま手を引かれ、支えられてボートから距離を取る。
足がぎりぎりつくかつかないか。
川の流れに抵抗しながら、水の中に沈んでいくボートを二人で眺めた。彼女は終始楽しそうだった。
川岸から誰かが何かを叫んで、彼女は私を支えていた手をパッと離す。
え、と目を開いて、目が覚めた。
今日は雨が降っていた。土砂降りの大雨だ。私達は傘も差さず、彼女に連れられるまま小高い丘のような、小さな山のような、近所の公園にも似たその場所に足を運んだ。
山の上には何にもない。公園には木が生えていたけど。
少し遠くには家のようなものがぽつりぽつりと見えた。
その場所にどこからともなく集めて来た木葉や枝を積み、砂を固めて真ん中から地面に傘の支柱のようなものを立てる。
真っ暗な空。遠くで時々光りを放つ。唸るような低い音がどんどんと近付いてくる。
「危ないよ」
そう言った瞬間、彼女は私の手を引いて山を駆け下り始めた。山のてっぺん。立てた支柱が見える位置で立ち止まり、一緒に振り返る。その時、大きな稲妻が支柱に向かって落ちてくるのが見えた。続いて、つんざくような大きな怒号が頭上に降ってくる。
大きな音の中で、私は大変なことをしてしまったと震える。恐る恐る視線を向けた彼女の瞳は爛々と輝き、活き活きとしていた。
そして、不安そうな私を見てにっこりと笑う。
「大丈夫。居なかったことにしてあげるからね」
三日月みたいな半円の唇に、立てたひとさし指を当てる。
またね、と言った彼女はやはりあの後怒られたと言う。
暗い部屋。白いカーテン越しの窓の外もまだ真っ暗。
起こした上体からずり落ちる。白いシーツの上で私の横に納まった絵本。
さっきまで隣に居た友達。
本当に”居ない”のは。
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