オートフィクション

24 秋空

2019/07/05 22:22
付き合っていた年下の男が最悪すぎて、次に付き合ったのは私よりも9つ歳上の人だった。その人は同じ職場のチーフで、見た目や言動に男性っぽさがあった。私はその人を女性と認識していた。そう認識しながら告白すると、その人はすんなり受け入れてくれた。一応一言、「私女ですけど大丈夫ですか?」と聞いたら「いいよ、性別とか気にしないから」と笑ってくれた。私はそれまで、付き合った人のことを「彼氏」と呼んでいたから、彼女のこともそう呼びたかった。そこでまた断りを入れると、それにかんしても「いいよ、好きに呼んで」と言ってくれた。その人は、体は女性だけど、性自認は男性、という人だった。

「飲めよ」と言われて、自分が吹いた潮が入ったコップを口に押し付けられたことがある。顔を背けると、ピチャリとはねたコップの中身が上唇や鼻にかかった。元カレに怒鳴られ、仕方なくコップに口をつけ、私は息を止めて自分の潮を飲んだ。クソ不味い後味の中、私は怒りや悲しみや憎しみといった感情が心臓のポンプから血液によって全身に目まぐるしく駆け巡っているのを感じた。もう二度とこの男とはセックスしないと思うけれど、それが出来れば今こんな惨めで最悪なことにはなっているはずがなく、こういう酷い扱いを毎回毎回受けてしまう自分の無力さに絶望する。どうして断らないのか。断ってる。だけど、1度や2度断ったところで、誘いは終わらない。もうなんか、抵抗することのリスクよりも、受け入れることの無難さを取った方が断然いい。断ったり抵抗したら怒鳴られる、髪を引っ張られて服を剥ぎ取られて、場合によっては殴られて、泣いたり喚いたりしてる隙に、元カレが興奮するためだけに雑にクンニや手マンをされて、まんこが傷ついて、傷ついたまんこにカサカサのちんこが入ってきて、ピリピリ突っかかりながらピストンされてクソがクソがクソがって何度も心の中で喚きながら射精するのを待つ。それはあまりにも惨めで、それよりは自分から服を脱いで足を開いた方がまだマシだと思う。自分で自分を勇気づけ盛り上げてあげると、行為中は、体にかかった手も、まんこを掻き回す指も、ズブズブ奥をつくクソちんこも、喘ぐ自分の声もみんなどこかふわふわしていて、だからある意味上手くやり過ごせる。まんこは放っとけば濡れるし、イッた振りだって簡単に出来る。だから、受け入れた方が楽だ。

そんなどん底の価値観だったけれど、その一年後、フリーになっていた私は彼女と付き合った。彼女とキスをして、同じ布団で寝て、彼女の手でイク。私も同じことをする。

第三者には、私は彼女のことを「彼氏」と紹介する。初めは自分でも混乱したけど、慣れてきたらそうでもない。

最近、職場の21歳の女が、彼女を格好いいと言っていると聞いてから、私は毎日イライラしている。彼女はなんでもないと言うけれど、私はそんな言葉信じられなくて、毎日その女を睨んだり彼女に探りを入れたりしながら過ごしている。

吹き上げた煙が涼しい風にかき消される。秋の空は高い。タバコを吸いながら、来年の今頃は、また違う人の隣にいるのかもしれないとぼんやり思った。

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