オートフィクション

27 ある女

2019/07/09 20:22
寂しくて寂しくて仕方なかった。たまに寂しくて死ぬ人間の話が報道されていたのを思い出した。自分もそんな人間になってしまう可能性があるのだと、初めて知った。

触れられている時、泣く。寂しくて死にそうだった心には一文字の赤い線が浮かび上がり、そこからタラタラと血を流し始めた。それが現実世界では、目から溢れる透明な涙となった。

彼に私だけを見て欲しい。寂しい。彼が他のものに目を向けないように、触れ合う。彼の精巣を空っぽにしたい。私の目的はこれだった。3日間、72時間をあけずに、また溜まった精液を私の体を使って出したい。

惨めだったけど、そうしない夜は彼がほかの女を見て自慰する恐怖で気が狂いそうだった。自分の体を使って精液を出させても泣き、触れられない夜も泣き、結局何をしても泣いた。

触れ合わない夜、涙が止まらなくなって、隣で眠る彼を起こさないようにフローリングに降りた。「大丈夫?」と、すぐに私を心配してくれる眠たげな掠れた声がきこえてきた。

「大丈夫」

私は小さな声で明るく言うと、ドアを静かに閉めトイレに向かった。便座を上げ、嘔吐する。何も出てこない。透明の唾液がダラダラぽたぽたと便器の中の水に落ちていく。その視界がボヤけ、唾液に混じって涙も落ちていく。

セックス依存性じゃない。ただ、触れて欲しい、触れ合っていたい、セックスはしなくてもいいのだ。

そして、私だけに欲情して欲しい。無理なことは分かってる。それを見て見ぬふりすることがマナーというか、常識的であることも知っている。

だけど私はやっぱり悲しくて仕方なくなる。

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