1回ものシリーズ
この世には男性・女性と大別される性の他に、α・β・Ωという性が存在する。
子どもでさえ男性・女性の違いは説明するまでもなかろうが、α・β・Ωの違いは説明が必要であろう。
なぜなら、それが一生を大きく左右してしまうこともあるからである。
これは、出会うはずのない男女が出会ってお互いの運命を狂わせて行く話……。
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「綾子、今回の企画も大成功だ!」
幼馴染の一宮継仁に笑顔を向けられ、三条西綾子……芸名、三条西エステルも笑顔を見せる。
「それは良かった、貴方の自慢の商品の売り上げに少しでも貢献できるのなら嬉しいわ」
「君を謎多きモデルで売り出して良かった。この商品のコンセプトに合う女性はそういない」
継仁は、綾子の横に座って雑誌を広げる。
「おかげで、私は日本で一番有名な若い子向けのファッションショーの花道を歩けたしね」
三条西エステル……。
息を飲むような美しさと、それに内包されつつも溢れ出る気品や教養……。
それは、あらゆる人間を虜にした。
だが、「三条西エステル」は一宮製薬会社の新たな化粧品ブランド「エステル」の「顔」としてしか姿を見せないこともあって「謎多きモデル」として世間を賑わしていた。
綾子自身はそれでいいと思っているし……むしろ、それでしかあれないと思っている。
「私がαかβだったら、もっと広く売り出せたのにね……」
綾子は、継仁の肩に頭を預けた。
そう、実は綾子の性は「Ω」であった。
「三条西エステル」の時は「α」として振舞っているものの、いつ本当の性がバレるか分からない。
現代では前近代ほど「Ω」への差別はないものの、まだこの世は「Ω」が少し生きにくい世なのである。
「気にすることはないさ、綾子はよくやってくれている。『エステル』の顔だけで、十分だよ」
「でも、昔ほど貴方の秘書の仕事……できてないわ……」
「今や綾子の方が、この会社では重要な存在だよ」
継仁は、優しく綾子を抱き締めた。
「大丈夫だよ、綾子……」
「なら……いいのだけど……」
不安が拭えないまま、綾子は継仁の背に手を伸ばした……。
――数日後。
「綾子、これから『三条西エステル』として営業に出てもらえないか」
コーヒーを淹れていた綾子に、継仁は突然告げる。
「……いいけど……どうしたの?」
「それが……会社と大口契約を結んでくれそうな病院の院長が、『三条西エステル』を見たいと言っていて……」
「そうなの……病院の院長さんみたいな人まで『三条西エステル』を……」
「だから、今すぐ準備してくれないか?」
「いいわ……少し待ってて」
継仁に言われて、綾子は「エステル」の商品が置かれている秘書室に入る。
そして一宮製薬会社の別ブランドの化粧品を落とした後、改めて「エステル」を肌に乗せていく。
――上品で魅惑的な女性。
そうしたコンセプトで作られた「エステル」を最大に体現するのが綾子……エステルである。
綾子は、更に魅力的なエステルになった。
「お待たせ、継仁さん」
「あぁ……今日も素敵だね、エステル。行こうか」
継仁はエステルの手を取り、彼女をエスコートする。
「ありがとう、継仁さん」
「僕こそ、ありがとう。エステル」
二人は、穏やかな笑みを見せ合ってから継仁が運転する車で営業先の病院に向かった……。
――永禄大学付属病院。
「ここ……すごい大病院じゃない」
エステルは、玄関に降り立った瞬間言葉を失う。
「言ったろ?大口契約だって」
受付に向かう間、継仁はエステルに資料を渡す。
「軽くでいいから、読んでおいて。君は僕の横で院長に微笑んでいるだけでいいから」
「ええ……分かったわ」
エステルがロビーに座るのを見届けると、継仁は受付へ院長との面会の約束を確認しにいく。
「……えっ、あれ三条西エステルじゃない?」
しばらくすると、病院にいた誰かがエステルの正体に気付いたのか声を上げる。
――無視よ……こういうのは、無視……。
エステルは、「そっくりさん」の風を装って全く耳に止めないでいた。
「本当だ、三条西エステルだ……どうして病院に?」
「さっき男の人といたよね……?もしかして妊娠してるとか……」
「まず、既婚だったの?!」
次第に、エステルの周りに人が集まって来る。
――継仁さん、まだかしら……。
「遅れてごめんなさい、西条先輩!!病院内で迷っちゃって……」
その時、ちょうど継仁がエステルを迎えに来た。
「もう……心配したじゃない、ケガは大丈夫?」
「結果は、これからだそうです。先輩も……って」
「分かったわ」
継仁の機転で、エステルはサササーッと人混みを抜ける。
「……やっぱり、ギリギリまで車で待たせておくべきだったかな」
「そうかも……」
継仁の言葉に、エステルは気まずそうな顔をする。
「まぁ、終わったことだし気にしない!さ、院長に会いにいくよ」
「ええ……足利院長……って、お呼びすればいいのね」
資料に添付されていた継仁の付箋にあった呼び方の指令を、エステルは再度確認する。
「そ、彼は永禄大学付属病院の若き病院長……足利義輝」
「若いのに病院長って、すごいわね」
「それだけ天才だってことだろ?」
「貴方だって十分すごいわ……」
「全く……君は口が上手いんだから……それがいいけど」
院長室の前で、二人は頷き合う。
「一宮製薬会社の一宮継仁と三条西エステル、ただいま参りました」
ドアをノックして、病院長……足利義輝の返事を待つ。
「よく来てくれた。さぁ、入ってくれ」
数秒としない内に、義輝の返事が返って来る。
――え、え……?
返事を聞いた瞬間、エステルの体に甘い電流のような物が走る。
「――失礼します」
継仁は、一礼してから院長室に入る。
しかしエステルは、急にその場から動けなくなった。
「……エステル?」
「ん?どうかしたのか?」
部屋の奥からの声で、またエステルの体が熱を持つ。
――そんな……発情期はもう終わってるはず……。
エステルは、なんとか体を動かして継仁の服の袖を持った。
「……どうしたの?」
「――ごめんなさい、急に体調が悪くなって……帰りたいの……」
エステルは詫びのつもりで力を振り絞ってドアの中に入って義輝に向けて一礼してから、逃げるように病院から帰っていった。
「綾子……!!」
「……エステル……彼女は大丈夫かな?」
呆気に取られていた継仁に、義輝は声を掛ける。
「分かりません……多分、突然の大口契約で緊張してしまったのだと……」
――彼はもしかして、αなのか?
継仁は、改めて義輝と向き合った。
「それは精神的に良くないことをしてしまった……精神科医として恥じるべき醜態……。あれだったら、仕事終わりに彼女を往診しよう」
「いえ……それは、私が」
「素人の自己判断は危険だ。そういうのは医者に任せておくのが吉というもの。彼女の住所は?もちろんこれは守秘義務故、診察の目的以外に口外はせぬ」
「しかし……」
「彼女の体に何かあったらどうする?医者にすら行けない体調不良だったら?家で孤独死などさせたくないであろう?」
この後、継仁は義輝に言われるまま綾子の住所を教えたのだった……。
******
――どうして……?
義輝の声を聞いてから身体が熱い。
持っている中で一番薄いネグリジェになって発情期の時に飲む抑制剤も飲んでいるのに、一向に効かない。
火照る身体を紛らわすために、テレビを付けて意識をそちらに向けさせようとする。
見るに耐えるものはないかとチャンネルをザッピングしていると、
「それは夏に向けては控えた方がいい習慣です」
と、義輝の声がテレビから聞こえて来た。
「あ……あぁ……あぁ……!!」
綾子は、リモコンを取り落す。
義輝の声が、顔が、仕草が綾子の身体の火照りを更に加速させる。
「いやぁっ……!!」
綾子は、耳を押さえて目をテレビから逸らした。
それでも僅かに聞こえて来る義輝の声に、綾子は身体を震わせる。
――ああ、その声で私に愛を囁いて激しく犯して支配して欲しい。
それは、紛れもなくΩとしての被支配願望だった。
「あ……あぁ……犯し、てぇ……」
その時、マンションのインターホンが鳴った。
――継仁さんかな……?
自分が突然帰ったことを心配して来てくれたのか、と思って綾子は上着を羽織ってなんとか立ち上がって玄関まで行く。
「はい……継仁さん?」
綾子は、意識せずにドアを開ける。
「――やっと会えた、予の運命の番」
次の瞬間、綾子は情熱的な力で玄関の壁に身体を押し付けられた。
「やっとだな、エステル」
「あ……あぁぁぁ……!!」
顎を掬い上げられて来客と顔を合わせた瞬間、それは義輝だったと綾子は気付く。
「もうこんなに身体を熱くして……そんなに予が恋しかったか?」
義輝は、綾子のネグリジェの裾から見える太ももを優しく撫でる。
「あ……あぁぁぁ……や、やめ……」
「いいや、やめぬ……否、やめられぬ」
そう言うと、義輝は綾子と熱いキスを交わした。
少しでも綾子の体液を感じたいと言わんばかりに、執拗に舌を絡ませて来る。
「んんん――!!」
「堪らぬ……」
義輝は、綾子を抱き上げて部屋の中に入る。
「……そうか、今日は予が出ている番組の放送日だったな」
付いているテレビを一瞥した後に、義輝は寝室を探す。
寝室を見つけると迷わずそこに行って、綾子をベッドの上に降ろした。
「いや……やめ、て……」
綾子は、力無く義輝に抵抗する。
「――まさか、この火照りは自然に治るとでも思っているのか?」
義輝は乱暴にスーツの上着とネクタイを外して放り投げて、綾子に覆い被さった。
「それ、は……」
「Ωの被支配の発作は、そう簡単には治るまい。……媚薬を飲む時以上の場合もあると言う報告もあるくらい故、さぞ辛かろう」
認めなくないが、事実だった。
早く抱いて欲しい、貫いて欲しい、支配して欲しい……。
処女の身体なのに、貪欲にαを求めている。
義輝を間近に感じて、それは更に倍増する。
「かく言う予も……もう我慢できぬ」
義輝は、再度綾子とキスをした。
それと同時に、綾子の着ているネグリジェを脱がす。
一糸纏わぬ姿なのに、身体の熱は下がらない。
「……堪らんなぁ」
義輝は、ニヤリと笑ってワイシャツを脱ぐ。
「あ……あ……ぁ……!」
義輝の筋骨隆々なバランスの取れた身体の魅力だけでなく、溢れ出るαのフェロモンとも言える物が綾子の被支配本能を刺激する。
「さぁ……予に見せてくれ」
義輝は、綾子の胸を手で舌で丹念に愛撫する。
「あぁぁぁ!あぁ!あ……!」
綾子は身体を震わせて愛撫を迎え入れる。
「……すまぬ、本当はもっと愛してやりたいのだが……」
義輝は、熱に浮かされたような口調で言いながら綾子の脚を開かせた。
「あ……はず……か……し……」
「……綺麗だ……そして淫らでもある」
綾子の太ももにキスをした後、義輝は綾子の花芯を指で触れた。
「あぁん!」
「もうこんなに濡らして……解しても良いな」
親指で花芯に触れながら、人差し指と中指を綾子の蜜壺に差し入れる。
「あ……あぐっ……あ、あっあ……!!」
「息を止めるな……大丈夫」
義輝は、綾子とキスをしながら蜜壺を解す作業をする。
「あ……あぁぁぁ!!」
「はぁ……もう一つになりたいな……」
ゆっくりと指を抜いてから身体を起こして、義輝はズボンを脱いで自身の熱い欲望の塊を綾子の蜜壺へと埋め込んで行く。
「あ、ああ、あぁっ!んぁあ!」
「くっ……これは、名器だな……堪らぬ……!!」
綾子の最奥まで自身の根元を埋め込んだ後、義輝は愛おしげにキスをする。
「あぁ……予の、運命の番」
直後、義輝は綾子の項に噛み付いた。
それは、αである義輝の「運命の番」というマーキングだった。
「あっ……わた、わたし……」
「これで予から逃げることは許さんぞ」
義輝は、不敵に笑ってから緩慢な抜き差しを始める。
「熱い……あぁ……大きいよぉ……!」
綾子に、最早理性など残されていなかった。
あるのは、目の前のオスのαに……義輝に犯されて支配されたいというメスとΩの本能だけ。
「エステル……!!」
「あぁぁん!綾子、おかしくなるよぅ!!おかしくなるぅ……!」
「綾子……綾子……!」
「奥ぅ!奥突いてぇ……!気持ちいいのぉ……!!奥来てぇ……!!」
綾子は、本能のままに義輝を求める。
「そうか……綾子は、奥が、いいのだな……!!たっぷり……突いてやろう……!!!」
義輝も、本能のままに綾子を抱く。
「あぁっ!!!いいよぉ……!!!そこ!そこ好きぃ……!そこ!あっあっあっあっ、イクぅぅ……!!!」
「いいぞ、派手にイけ……!!!今夜は一晩中……突いて、出して、支配して、やろう……!」
「あぁぁぁっ!!!義輝さん、好き、好きぃぃぃぃ……!!!」
身体を震わせて果てながら、綾子は義輝に愛を告げる。
「あぁ……!予は、そなたを……雑誌で見た時から……!!愛しているとも……!!」
義輝は、綾子の最奥に精を放ちながら睦言を放つ。
「あ、あぁ……嬉し……私のこと、ずっと……?」
「見ていたとも……全て、な」
義輝は、そう答えつつ再度綾子の中にある自身の抜き差しを始める。
「あ、あぁっ!わた、し……全部、全部見られ……」
「ああ……全部、見えているぞ。結合部も、丸見えだ」
義輝は、近くに置いてあった自身のスマホを取って写真を撮り始める。
「い、いやぁっ……!いや……!」
「エロ過ぎるな……」
シャッター音の度に、義輝は舌舐めずりをする。
「あ……や、ぁ……」
「その割には、締め付けて来て……」
「身体が、それは……勝手に……」
「いいぞ……もっともっと、エロい綾子を見せてくれ」
義輝は、スマホを傍に置くと一度綾子の中から自身を抜いて行く。
「え……あ……?」
綾子が戸惑った次の瞬間、義輝は一息に最奥まで綾子の蜜壺を貫く。
「あぁぁぁぁぁ!」
綾子は、すぐにイッてしまう。
「……さぁ、まだまだ夜はこれからだぞ綾子」
義輝は綾子に優しくキスをしてから、綾子の身体を再度支配し始めた……。