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冷水


暑い夏の午後。
「鯰尾ー?」
鯰尾に話があって探しながら縁側を歩いていた。屋根があるとはいえ、斜めからの日差しがジリジリと照りつけている。
「はーい、おれはここです」
「うわっ」
声のした方から勢いよく水が飛んできた。
「わ、ごめん! 主! そんなつもりじゃ」
「大丈夫」
どうやら鯰尾は呼ばれて握っていた水を出したままのホースごと振り向いたようで私は水の直撃にあった。
「兄弟はそういうところがある」
鯰尾の横にいた骨喰藤四郎がその様子を見て溜息を吐く。
「そういうところってどういうこと骨喰」
「考えてみるといい。主、タオルを持ってくるから待ってて」
骨喰はそう言ってタオルを取りに行ってくれた。
「ほんとにごめん」
「いいよ。で、二人は何をしてたの?」
 すぐ許す私は鯰尾に甘い。
「畑で取ってきた野菜を洗ってたんだ」
「そっか」
なるほど、それで水。そういえば今日は鯰尾と骨喰の二人が畑当番だった。
「主はおれに何の用?」
「ああ、そうそうちょっと相談に乗って欲しくて」
うっかり当初の目的を忘れてしまうところだった。
「相談? おれに務まるかな」
「鯰尾は近侍だよ? 務まらないことなんて何もないよ」
「それまだ慣れないんだよなあ」
鯰尾が近侍になって少し経つが本人はまだしっくりきていないようだった。
全てを背負う必要はないがある程度の自信や覚悟はあってほしいのでそれについての相談をしようと鯰尾を探していた。
「自信ない?」
「そういうわけではないけど」
「かっこいいし、強いし、頼りになるんだからってちょっと」
褒めてたらまた水をかけられた。水は止めさせておくべきだった。うっかりしてしまった。
「ご、ごめん。わざとじゃないんだ」
「もー仕返し!」
こうなったら、と鯰尾からホースを奪って水をかけた。
「冷たい。しかしこれだけ暑い日だ、気持ちいいな」
「仕返しにならないんですけど?」
「いい位置に当たれば冷たくて気持ちいいから、ほら」
「ほらじゃないんですけど」
たしかにこの暑さの中水は冷たくて気持ちがいいけども。
「あっちょっと」
「ん?」
あれ突然頬赤らめてどうしたんだろう。
「その、透けてる」
「わっ」
言われて自分の服を見るとしっかり下着がわかるくらいに透けていた。
「わっじゃないよ、はいこれで隠して」
ちょうどいいところに骨喰が戻ってきてくれて大きなバスタオルをくれた。
「ちょうどいいところに来てくれて助かった。やっておいてなんだがいたたまれなかった」
「それは何よりなんだけどなんで兄弟まで濡れてるんだ?」
「暑かったからつい」
かけられたとは言わないんだね。こんな子どもみたいなことしたってバレたら怒られちゃうから黙っててくれるのかな、優しい。
「はあ、ついって。ほら兄弟もこれで拭いて。いくら夏とはいえちゃんとしないと風邪引く」
「ありがとう」
さすが骨喰、タオルは二枚持って来ていた。ドジっ子鯰尾は想定済みか。
「さ、拭いたら部屋戻って着替える」
「「はーい」」
二人仲良く返事をし、部屋に戻る途中「骨喰お母さんみたいだったね」って笑った。


(19/07/12)
薄い本「キミ シアワセ。」の書きおろしの一つ。これだけ公開しとく。
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