[目まぐるしい日々]


1ヶ月、半年、1年。
バンドの方はどんどん人気になり、プライベートも持てないほど休みなく過ごしていた。


海外のツアーの後、アルバム制作、そしてジャパンツアー。

目まぐるしく過ぎる毎日を何も考えられずに走るだけ。


時々浅葱を思い出しては、今頃何してるか思ってみたり。

元気なのか。

調べたくても地元で浅葱を知っている仲間は居ないし、探しようがない。


(来週の札幌公演の後休みもらえるから、そしたらあっちに残って浅葱の家に行ってみよう。)


以前、浅葱を家まで送ったことはあるから、家はわかる。


唯一、俺が浅葱の足取りを確認できるところ。


気持ちを切り替えて、またテーブルに向かい、作詞をしていると。


不意に携帯が鳴り出した。


表示されたのは、親父からの着信。


(珍しい、何かあったかな？)


「はい？」
通話に切り替えて携帯を耳に当てると。


久々に親父の落ち着いた声が聞こえる。


「あぁ、眞か？」
変わりないか？と、いつものような会話に、少しだけ懐かしくなる。


「変わりないよ。どうしたの？
電話なんて珍しい。」
手元にあったタバコに火をつけると。


「来週、札幌でライブした後こっちには帰ってくるのか？」
東京に来てから忙しくしてたから、もちろん親に連絡なんてしてない。


カレンダーを見ながら日付を確認すると、数日は居れそう。

「うん、帰るよ。何日かはそっちに居れそうだから。」
母親にも会いたいし。

そう付け足して言うと。


「そうか………。
じつは、どうしても眞に会いたいって人が居てな。
悪いんだが、帰って来たら会ってくれないか？仕事仲間だから。」
親父が俺の父親と知って会いたがる人は結構いるみたいだけど、会ってくれなんて言うのは珍しくて。


「あー………。わかった。」
まぁ、会うくらいならいいだろうと。


そんな他愛ない会話をして通話を終了させた。



(………面倒だけど、しょうがないか。)
親父にも断れないことはあるんだろうと。


コーヒーを一口飲んでまた作詞をするのにペンを持ったけど。



なんとなく携帯が目に止まり、また携帯を開くと、　浅葱の電話番号を表示する。


発信ボタンを押せば、やはり聞こえてくるのは無機質なアナウンス。


(………だよな………)
とりあえずは、来週。

ツアーファイナルが終われば少しだけ時間があくから。


今回帰ったら、その時こそ、浅葱に会いたい。


会って、あの日会えなかった理由を聞きたい。



そして、また笑い合いたい………。