[引き戻される現実]


目覚めたのは



全く知らない部屋の



全く知らない人の腕の中。



「とりあえず、話しよっか………？」


冷めた飲み物をくれた、その人は
どこか悪戯っぽく笑いながらこちらを見ている。



「あの………、私は昨日………」

何があったのか、知りたいけど、聞いちゃいけない気もする。


モゴモゴと、マグカップに口を付けたまま、その人を直視できないでいると。



「昨日のこと？覚えてないの？
あんなに激しかったのに(笑)」


「激しいっ！？」

少し気だるそうに、その人は含み笑いで答えた。
その言葉に、まさか知らないこの人としてしまったことを想像して、血の気が下がる。


いくら酔っていて記憶がないとはいっても。
そんなことをしてしまうなんて…………。




「あの………すみません、私…………」

何も覚えてなくて………。

そう伝えようとした刹那。

横たわるその人の後ろに見えた時計が7時30分を指しているのが見えた。


「うそ！？7時30分！？」
おもわずマグカップを落としそうになり、目の前の人が受け取ってくれる。


いつもなら、もう全ての準備が終わり電車に乗ってる時間。


「やばい………。」
今目の前にある現実より、瞬時に仕事に行かなきゃいけないことを思い出した。


「仕事？」
マグカップをサイドテーブルに置いて時計を見た目の前の人は起き上がりこちらに目を向ける。


「はい………。話はしたいんですけど」


「その顔で行くの？」
話の途中で、被せるように問われた言葉に、私の頭は「？？」だらけになった。


「………顔？」
私の顔がどうなってるのか。
見えていない私を気遣うように、サイドテーブルに置いてあるコンパクトミラーを渡してくれる。



その鏡を見て、愕然とした。

腫れぼったい瞼に、充血した目。
化粧で隠せる状態じゃない。


「うわぁ………。」
仕事に行かなきゃいけない時間なのに。
スーツもシャツも昨日のしかない。
化粧してる暇もない。


悩んでても時間だけが過ぎるだけ。
でも、答えがでない。


「………はい。」
かけられた声に我に返り、顔を上げると。


目の前の人は私の携帯を差し出していた。


「………え？」
意味がわからずいると。


「今から上司に電話する。
『すみません、朝から体調が悪くて微熱があるので、今日は休みます』
って言う。」
迷ってる私に道を示すように。
休みを取るように言ってくる。


「でもっ………。」
休むと言っても。
嘘ついて休むなんて。
考えたことなかった。



でも、その人は笑ってマグカップを持った。

「今から何しても仕事には間に合わないし、その顔で外出るわけにいかないでしょ？
諦めな。
服、出しといたから。」

お茶、入れてくるから。


そう言ってそっと私の頭を撫でると、気を使ってくれたのか、ベッドの上にTシャツとスウェットを置いて出ていってしまった。


残されたのは


ベッドの上で毛布にくるまれた私だけ。



手の中にある携帯を見つめたままため息をついた…………。