和楽器バンドの夢専用の名前になります♪
Strong Fate
君の名前は?
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【狐の嫁入り】
春のこと。
境内の満開の桜の下、小さな子供を抱いた男と、足元の池を覗いている男がいる。
二人は子供と舞い落ちる桜を眺めていた。
男達はその子供の父親ではないのに。
子供は、楽しそうに舞い落ちる桜を見て笑っている。
「いやぁ、綺麗だね。パパとママにも見せたいね。」
時折、指をしゃぶりながら、遊ぶその子は。
真っ白い着物を模した服を着せられて、たまに裾をいじったりしている。
「大さんが抱っこしてると、本当に様になるよね(笑)」
立ち上がり、子供の頬をプニプニと弄ぶのは、聖志。
「まぁ、誰より経験者ですからね(笑)」
大さんは、よいしょっと、その子供を抱え直すと近くのベンチに腰かけて、持っていた麦茶を渡す。
子供は両手に持ちストローでゴクゴクと美味しそうに飲んでいる。
「しかしさ、姫って、どっち似だと思う?」
姫と呼ばれるその子は、パッチリした目で、目の前で手を振る聖志の手を取ろうとする。
大さんは、うーん、と少し考えた後。
「どっちにも似てる気がする。良いとこ取りみたいな?」
たしかに!
と、二人で子供と遊んでいると。
「あ、居たいた!
大さ~ん!聖志~!そろそろ用意できたよ~♪」
パタパタと、ゆう子が小走りでやってくる。
「あー!!姫ちゃん居た~!!」
着いたとたんに、大さんから姫を奪うと、よしよし、と揺らしてくれる。
「大さんに誘拐されてたの~?悪い人ですね~(笑)」
ニヤニヤと笑いながら大さんを見れば、呆れ顔で。
「まっちはギターのサウンドチェック行ってるし、浅葱ちゃんは用意終わってないから経験者の僕があやしてたんでしょーが(笑)」
ねぇ?と姫に笑うと、キョトンとした顔。
「そろそろママの所に行ってみようか?ママ、キレイになってるかな~??」
「まっまっ♪」
まだ上手には話せないその子は、ママだけは理解してるらしく、嬉しそうにパタパタと手を振っていた。
桜の舞い散る境内を歩き、控え室と書かれた部屋をノックする。
「どーぞー♪」
部屋の中からは、侑伽さんの声。
ドアを開けて覗き込むと。
中には侑伽さんと、楓さんが居る。
「きゃ~!出来上がったね~♪」
ゆう子は車椅子に座るその姿を見て歓喜する。
キラキラと光が差し込む部屋に車椅子に乗った真っ白な後ろ姿。
顔の半分隠れる綿帽子に真っ白な打掛。
掛下には白とグレーに、キラキラとしたチャームが揺れている。
その白無垢を着ている女性。
それは、浅葱で。
「やっぱり映えるね♪あの衣装がこうなるのはな~♪」
事件の後。
ツアーの最終日に2曲だけ演奏した白い狐がいた。
その狐の面をつけた龍笛奏者は、町屋が抱えて連れてきて、聖志の琴の前に座ると、そこから歩き回ることなく、
2曲だけバンドと一緒に演奏した。
それは、ゆったりとした、たった2曲だったのに。
ファンの中では有名になるほどの印象を与える存在になった。
素性も明かされることなく。
2曲が終わると、また町屋が抱き抱え去っていった。
それが、浅葱であると。
その時に着たのが、今着ている掛下。
それを侑伽さんが白無垢にアレンジしてくれて、今日の日を迎えている。
「まっまっ!」
綿帽子から覗く顔を見たとたん、姫と呼ばれる子は嬉しそうに手を伸ばす。
「おいで~♪」
浅葱はそっと手を伸ばすと、膝に乗ってきた自分の娘を抱き締める。
「あ!浅葱ちゃん!ほっぺたスリスリも、チューもダメよ!?
化粧が崩れちゃうから!」
楓さんが、今にも娘にキスしようとしていた浅葱を止める。
「やっぱり、ダメでしたか(笑)」
残念そうに。
腕の中に抱えて手を繋ぎ、笑いかける。
ゆう子は、浅葱と、その娘の着物をしげしげと見てため息をつく。
「やっぱりすごいね~!
侑伽さんらしい♪ミニチュア浅葱ちゃんだよ~♪」
浅葱の子は、まさに浅葱の白無垢をミニチュアにしたままの着物をドレスに変えてもらい着ている。
この日の為に侑伽さんが作ってくれたもの。
「本当に、こんな物まで。ありがとうございます。すごく嬉しいです。」
浅葱がペコリと頭を下げると。
「よかったよ~。ミニチュアを姫ちゃんが着れる日が来て。
初めは浅葱ちゃん、結婚式はやらないって言い張ってたから、この白無垢も無いかなって諦めてたんだよ~?
町屋君がやるって言ってくれて嬉しかった。」
侑伽さんは嬉しそうに。
しゃがむと膝の上の姫の頬を触って笑う。
「足はもう良いの?」
楓さんが心配そうに覗き込む。
足は、階段から落ちた後、少し麻痺が残ってしまっていた。
リハビリのおかげで少しずつ歩けるようにはなっていたけど。
「少しなら歩けます。すぐ疲れちゃうから体力つけないと!」
ね~♪と、娘と笑っていると。
「そろそろ参列者様は会場へ移動してください。」
迎えにきたスタッフさんに皆が動きだす。
「よし、じゃあ姫ちゃん行くよ~♪」
姫は、ゆう子が抱き上げると、バイバイと、浅葱に手を振って部屋を出ていった。
厳粛な雰囲気の中、サウンドチェックも終わり、参進の議が始まるのを、入り口前で待っていると、侑伽さんに連れられて車椅子の浅葱がやってきた。
白無垢に綿帽子。
うつ向いていたけど、俺の足が見えて顔を上げる。
いつも以上にキレイで息を飲む。
「眞♪袴姿がキマッてますね♪」
上から下までしげしげと俺の姿を見ては、目をキラキラさせて喜ぶ浅葱。
「浅葱も。見事な花嫁で惚れ直した。」
しゃがんで椅子の高さに視線を合わせると、嬉しそうに微笑んでくれる。
子供が産まれて、ツアーやソロの仕事も立て込みはじめて、結婚式はしなくていいよと浅葱は言っていたけど。
侑伽さんからツアーで着た衣装を白無垢に仕立てたいと話を聞いたとき、その姿を見たいと思った。
だから、仕事が落ち着いた春先にメンバーも予定を合わせて、こじんまりと神前式をあげることにした。
「そろそろ入場になります。」
神主さんの声に侑伽さんは席に戻るねと離れていった。
車椅子を押そうと後ろに立った時。
「よっいしょっ。」
不意に浅葱がゆっくりと立ち上がった。
「え?おいっ、立たなくて良いよ。」
車椅子のままでも良いと神主さんに言われていたから座らせようとすると。
「えへへ。歩くの♪」
そう言って着物の裾を正した。
「いや、車椅子で良いって。」
さすがに。
最近やっと歩けるようになって、まだ体力も戻ってないのに。
それでも、浅葱は言うことを聞くはずもなく。
「これから、色んなことがある。大変な道もあるのに、こんな所から甘えてたらダメだから。歩かせて?」
ヨタヨタと、心もとないけど、車椅子を片付けてもらうようにスタッフにお願いしている。
本当に、浅葱は強い。
こうなると、言っても聞かない。
クスリと笑って、浅葱の手を取った。
「??」
浅葱はびっくりしてたけど。
「これから、大変な道もある。
俺も強い訳じゃないから挫けることもある。
でも、浅葱に支えて貰えたら、また歩き始められると思うんだ。
浅葱に支えて貰いたいから、俺にも浅葱を支えさせて?」
繋いだ手の上に、そっと手を重ねると。
「こちらこそ、よろしくお願いします。不束者ですが(笑)」
そう言って笑ってくれる。
「では………」
神主がそう声をかけた時。
サラサラと、小雨が降り始めた。
晴れているのに、雨。
神主に続き、浅葱を支えて歩き始める。
会場に入ると、背筋を伸ばし、支えられながらもしっかり歩く浅葱に、皆、驚いていた。
ゆっくりと歩く中、ゆう子に抱かれる娘を見れば。
待ちきれずに眠ってしまったようで。
浅葱と目を合わせて笑う。
神棚の前に行くと、そっと用意された椅子に座る。
厳かな雰囲気の中、神主の祝辞、三三九度、誓いの言葉。
滞りなく進んだ。
「では、指輪の交換を。」
いつか、浅葱に内緒で作った指輪。
まさか結婚指輪になるなんて思ってなかったけど。
手作りなのを初めて見た浅葱は、声にならない驚きで目を輝かせていた。
式が終わり、会場を出ると、やはり外はまだ天気雨で。
「天気雨だね~」
浅葱は、桜の元に行けないことを少し残念そうに、用意された車椅子に座った。
「【狐の嫁入り】だね?」
不意に思い付いて浅葱に笑いかけると。
「私のこと?」
とイタズラっぽく笑ってくれる。
「だって、龍笛の狐さんでしょ?
あ、虹!」
和楽器バンドのファンの中では、浅葱のことは【龍笛の狐】と呼ばれていたから。
見上げれば、降っている雨の向こうには、キレイな虹が掛かっている。
記念撮影を終え、披露宴会場に参列者が移動して。
浅葱は控え室に戻り、打掛と綿帽子を取ってもらう。
その間、俺は娘を抱えてミルクを飲ませている。
「美味しい?」
粉ミルクだけど。
一生懸命飲む姿はやっぱり可愛いくて。
早く色々おしゃべりがしたい。
ぷはっ、と哺乳瓶を離すと、じっと俺を見て口がパクパクしてる。
「どした?」
口からこぼれたミルクを拭いてると。
「パァー♪」
いきなり。
にっこり笑ってたぶん、俺の事を呼んでくれた。
あまりの出来事に思考が一瞬止まってしまった。
「俺のこと?そだよ♪」
そう言って笑うと、また嬉しそうにミルクを飲み始める。
「まっち、用意できたよ♪」
ゆう子が衣装を直してもらった浅葱を連れてきてくれた。
「浅葱、聞いて!今、パパって呼ばれた!」
あまりにも嬉しくて、ミルクを飲んでる途中の娘を連れてくと浅葱をみた娘はミルクを放り出し
「まっまっ!!」
抱っこと言わんばかりに手を伸ばす。
「ホントに!?パパって言えたの~??」
娘を抱えて口を拭いて、もう一回言って~!
とお願いしても、娘はママしか呼ばず。
あまり信じてもらえなかった。
「さて、披露宴だ!参列者には最高の9人を、姫ちゃんには、最高のパパとママを見せてやろう!」
黒さんの声にメンバーと円陣を組んで手を合わせる。
参列者にはもちろん、演目として和楽器バンドの演奏も盛り込んである。
浅葱がリクエストしてくれた
【暁の糸】
【千本桜】
そして、ソロとして、俺の
【希望、一縷】
をやることになってる。
娘は楓さんが迎えに来てくれて、会場へ。
拍手の中、浅葱の車椅子を押してステージへ向かう。
外は、いつの間にか雨は止み、晴れ渡っていた。
俺はこの広い世界で浅葱と出会えたことが奇跡だとは思わない。
あの日、浅葱と出会うことが運命だったなら、そんな運命を作った神様ってやつは信じても良いかもしれない。
これから先、楽しいことも、苦しいことも、雨の日も晴れの日も沢山のことがあると思う。
どんな事があっても、浅葱が隣で笑ってくれているなら、俺も笑っていられると思う。
どんな事があっても、俺は二人の手を離さない。
だから、これからも、歌を止めないし、詩を書き続ける。
ずっと続く、君への愛の唄を……………。
-finale-
春のこと。
境内の満開の桜の下、小さな子供を抱いた男と、足元の池を覗いている男がいる。
二人は子供と舞い落ちる桜を眺めていた。
男達はその子供の父親ではないのに。
子供は、楽しそうに舞い落ちる桜を見て笑っている。
「いやぁ、綺麗だね。パパとママにも見せたいね。」
時折、指をしゃぶりながら、遊ぶその子は。
真っ白い着物を模した服を着せられて、たまに裾をいじったりしている。
「大さんが抱っこしてると、本当に様になるよね(笑)」
立ち上がり、子供の頬をプニプニと弄ぶのは、聖志。
「まぁ、誰より経験者ですからね(笑)」
大さんは、よいしょっと、その子供を抱え直すと近くのベンチに腰かけて、持っていた麦茶を渡す。
子供は両手に持ちストローでゴクゴクと美味しそうに飲んでいる。
「しかしさ、姫って、どっち似だと思う?」
姫と呼ばれるその子は、パッチリした目で、目の前で手を振る聖志の手を取ろうとする。
大さんは、うーん、と少し考えた後。
「どっちにも似てる気がする。良いとこ取りみたいな?」
たしかに!
と、二人で子供と遊んでいると。
「あ、居たいた!
大さ~ん!聖志~!そろそろ用意できたよ~♪」
パタパタと、ゆう子が小走りでやってくる。
「あー!!姫ちゃん居た~!!」
着いたとたんに、大さんから姫を奪うと、よしよし、と揺らしてくれる。
「大さんに誘拐されてたの~?悪い人ですね~(笑)」
ニヤニヤと笑いながら大さんを見れば、呆れ顔で。
「まっちはギターのサウンドチェック行ってるし、浅葱ちゃんは用意終わってないから経験者の僕があやしてたんでしょーが(笑)」
ねぇ?と姫に笑うと、キョトンとした顔。
「そろそろママの所に行ってみようか?ママ、キレイになってるかな~??」
「まっまっ♪」
まだ上手には話せないその子は、ママだけは理解してるらしく、嬉しそうにパタパタと手を振っていた。
桜の舞い散る境内を歩き、控え室と書かれた部屋をノックする。
「どーぞー♪」
部屋の中からは、侑伽さんの声。
ドアを開けて覗き込むと。
中には侑伽さんと、楓さんが居る。
「きゃ~!出来上がったね~♪」
ゆう子は車椅子に座るその姿を見て歓喜する。
キラキラと光が差し込む部屋に車椅子に乗った真っ白な後ろ姿。
顔の半分隠れる綿帽子に真っ白な打掛。
掛下には白とグレーに、キラキラとしたチャームが揺れている。
その白無垢を着ている女性。
それは、浅葱で。
「やっぱり映えるね♪あの衣装がこうなるのはな~♪」
事件の後。
ツアーの最終日に2曲だけ演奏した白い狐がいた。
その狐の面をつけた龍笛奏者は、町屋が抱えて連れてきて、聖志の琴の前に座ると、そこから歩き回ることなく、
2曲だけバンドと一緒に演奏した。
それは、ゆったりとした、たった2曲だったのに。
ファンの中では有名になるほどの印象を与える存在になった。
素性も明かされることなく。
2曲が終わると、また町屋が抱き抱え去っていった。
それが、浅葱であると。
その時に着たのが、今着ている掛下。
それを侑伽さんが白無垢にアレンジしてくれて、今日の日を迎えている。
「まっまっ!」
綿帽子から覗く顔を見たとたん、姫と呼ばれる子は嬉しそうに手を伸ばす。
「おいで~♪」
浅葱はそっと手を伸ばすと、膝に乗ってきた自分の娘を抱き締める。
「あ!浅葱ちゃん!ほっぺたスリスリも、チューもダメよ!?
化粧が崩れちゃうから!」
楓さんが、今にも娘にキスしようとしていた浅葱を止める。
「やっぱり、ダメでしたか(笑)」
残念そうに。
腕の中に抱えて手を繋ぎ、笑いかける。
ゆう子は、浅葱と、その娘の着物をしげしげと見てため息をつく。
「やっぱりすごいね~!
侑伽さんらしい♪ミニチュア浅葱ちゃんだよ~♪」
浅葱の子は、まさに浅葱の白無垢をミニチュアにしたままの着物をドレスに変えてもらい着ている。
この日の為に侑伽さんが作ってくれたもの。
「本当に、こんな物まで。ありがとうございます。すごく嬉しいです。」
浅葱がペコリと頭を下げると。
「よかったよ~。ミニチュアを姫ちゃんが着れる日が来て。
初めは浅葱ちゃん、結婚式はやらないって言い張ってたから、この白無垢も無いかなって諦めてたんだよ~?
町屋君がやるって言ってくれて嬉しかった。」
侑伽さんは嬉しそうに。
しゃがむと膝の上の姫の頬を触って笑う。
「足はもう良いの?」
楓さんが心配そうに覗き込む。
足は、階段から落ちた後、少し麻痺が残ってしまっていた。
リハビリのおかげで少しずつ歩けるようにはなっていたけど。
「少しなら歩けます。すぐ疲れちゃうから体力つけないと!」
ね~♪と、娘と笑っていると。
「そろそろ参列者様は会場へ移動してください。」
迎えにきたスタッフさんに皆が動きだす。
「よし、じゃあ姫ちゃん行くよ~♪」
姫は、ゆう子が抱き上げると、バイバイと、浅葱に手を振って部屋を出ていった。
厳粛な雰囲気の中、サウンドチェックも終わり、参進の議が始まるのを、入り口前で待っていると、侑伽さんに連れられて車椅子の浅葱がやってきた。
白無垢に綿帽子。
うつ向いていたけど、俺の足が見えて顔を上げる。
いつも以上にキレイで息を飲む。
「眞♪袴姿がキマッてますね♪」
上から下までしげしげと俺の姿を見ては、目をキラキラさせて喜ぶ浅葱。
「浅葱も。見事な花嫁で惚れ直した。」
しゃがんで椅子の高さに視線を合わせると、嬉しそうに微笑んでくれる。
子供が産まれて、ツアーやソロの仕事も立て込みはじめて、結婚式はしなくていいよと浅葱は言っていたけど。
侑伽さんからツアーで着た衣装を白無垢に仕立てたいと話を聞いたとき、その姿を見たいと思った。
だから、仕事が落ち着いた春先にメンバーも予定を合わせて、こじんまりと神前式をあげることにした。
「そろそろ入場になります。」
神主さんの声に侑伽さんは席に戻るねと離れていった。
車椅子を押そうと後ろに立った時。
「よっいしょっ。」
不意に浅葱がゆっくりと立ち上がった。
「え?おいっ、立たなくて良いよ。」
車椅子のままでも良いと神主さんに言われていたから座らせようとすると。
「えへへ。歩くの♪」
そう言って着物の裾を正した。
「いや、車椅子で良いって。」
さすがに。
最近やっと歩けるようになって、まだ体力も戻ってないのに。
それでも、浅葱は言うことを聞くはずもなく。
「これから、色んなことがある。大変な道もあるのに、こんな所から甘えてたらダメだから。歩かせて?」
ヨタヨタと、心もとないけど、車椅子を片付けてもらうようにスタッフにお願いしている。
本当に、浅葱は強い。
こうなると、言っても聞かない。
クスリと笑って、浅葱の手を取った。
「??」
浅葱はびっくりしてたけど。
「これから、大変な道もある。
俺も強い訳じゃないから挫けることもある。
でも、浅葱に支えて貰えたら、また歩き始められると思うんだ。
浅葱に支えて貰いたいから、俺にも浅葱を支えさせて?」
繋いだ手の上に、そっと手を重ねると。
「こちらこそ、よろしくお願いします。不束者ですが(笑)」
そう言って笑ってくれる。
「では………」
神主がそう声をかけた時。
サラサラと、小雨が降り始めた。
晴れているのに、雨。
神主に続き、浅葱を支えて歩き始める。
会場に入ると、背筋を伸ばし、支えられながらもしっかり歩く浅葱に、皆、驚いていた。
ゆっくりと歩く中、ゆう子に抱かれる娘を見れば。
待ちきれずに眠ってしまったようで。
浅葱と目を合わせて笑う。
神棚の前に行くと、そっと用意された椅子に座る。
厳かな雰囲気の中、神主の祝辞、三三九度、誓いの言葉。
滞りなく進んだ。
「では、指輪の交換を。」
いつか、浅葱に内緒で作った指輪。
まさか結婚指輪になるなんて思ってなかったけど。
手作りなのを初めて見た浅葱は、声にならない驚きで目を輝かせていた。
式が終わり、会場を出ると、やはり外はまだ天気雨で。
「天気雨だね~」
浅葱は、桜の元に行けないことを少し残念そうに、用意された車椅子に座った。
「【狐の嫁入り】だね?」
不意に思い付いて浅葱に笑いかけると。
「私のこと?」
とイタズラっぽく笑ってくれる。
「だって、龍笛の狐さんでしょ?
あ、虹!」
和楽器バンドのファンの中では、浅葱のことは【龍笛の狐】と呼ばれていたから。
見上げれば、降っている雨の向こうには、キレイな虹が掛かっている。
記念撮影を終え、披露宴会場に参列者が移動して。
浅葱は控え室に戻り、打掛と綿帽子を取ってもらう。
その間、俺は娘を抱えてミルクを飲ませている。
「美味しい?」
粉ミルクだけど。
一生懸命飲む姿はやっぱり可愛いくて。
早く色々おしゃべりがしたい。
ぷはっ、と哺乳瓶を離すと、じっと俺を見て口がパクパクしてる。
「どした?」
口からこぼれたミルクを拭いてると。
「パァー♪」
いきなり。
にっこり笑ってたぶん、俺の事を呼んでくれた。
あまりの出来事に思考が一瞬止まってしまった。
「俺のこと?そだよ♪」
そう言って笑うと、また嬉しそうにミルクを飲み始める。
「まっち、用意できたよ♪」
ゆう子が衣装を直してもらった浅葱を連れてきてくれた。
「浅葱、聞いて!今、パパって呼ばれた!」
あまりにも嬉しくて、ミルクを飲んでる途中の娘を連れてくと浅葱をみた娘はミルクを放り出し
「まっまっ!!」
抱っこと言わんばかりに手を伸ばす。
「ホントに!?パパって言えたの~??」
娘を抱えて口を拭いて、もう一回言って~!
とお願いしても、娘はママしか呼ばず。
あまり信じてもらえなかった。
「さて、披露宴だ!参列者には最高の9人を、姫ちゃんには、最高のパパとママを見せてやろう!」
黒さんの声にメンバーと円陣を組んで手を合わせる。
参列者にはもちろん、演目として和楽器バンドの演奏も盛り込んである。
浅葱がリクエストしてくれた
【暁の糸】
【千本桜】
そして、ソロとして、俺の
【希望、一縷】
をやることになってる。
娘は楓さんが迎えに来てくれて、会場へ。
拍手の中、浅葱の車椅子を押してステージへ向かう。
外は、いつの間にか雨は止み、晴れ渡っていた。
俺はこの広い世界で浅葱と出会えたことが奇跡だとは思わない。
あの日、浅葱と出会うことが運命だったなら、そんな運命を作った神様ってやつは信じても良いかもしれない。
これから先、楽しいことも、苦しいことも、雨の日も晴れの日も沢山のことがあると思う。
どんな事があっても、浅葱が隣で笑ってくれているなら、俺も笑っていられると思う。
どんな事があっても、俺は二人の手を離さない。
だから、これからも、歌を止めないし、詩を書き続ける。
ずっと続く、君への愛の唄を……………。
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