「何度殴られたって…………私はドラケンさんの事…………よく………知らない…………。」



ードサッー
殴るだけ殴られて、虎のタトゥーの人の前に投げ捨てられた。




「一虎、どうすんの？この女。
ドラケンの女じゃねぇじゃん（笑）」
殴られることは慣れてると思ってたのに。
ズキズキと痛む顔と体。
口の中は切れて血の味しかしない。
笑ってる半間を睨むことすらできない。



(失敗したかも………。)
私くらいのハッタリが効くほど、バルハラは簡単じゃない。


それくらいわかってたはずなのに。


地面に横たわり、肩で息をすることしかできない。


「………明日連れて行って使えないならその場で処分すればいい。」
冷めた視線を浴びながら、周りを取り囲む男達が騒ぎ始めるのがわかる。


「殺るか！？」
「犯すのが1番じゃねぇ？」
みんな玩具を見つけた子供みたいに楽しそうに。
私を明日までどうするかで騒いでる。



(おわったかも………。)
明らかに、明日の朝までに殴られる程度では終わらない。


たぶん、堅は今ですらキレてるのに、このまま明日になって、私がどうなったか知ったら。
誰かを殺すくらい有り得る話………。


でも。


私には何か今を打破する術なんてない………。


「じゃあ、俺が貰うわ。」
集団の中から出てきた男の足音が聞こえる。
顔も上げられずその声の主を確認はできないけど。



「…………場地。」
場地と呼ばれるその人は。


横たわる私の腕を引っ張りあげると、顔を覗かせた。


その顔は。


(獣みたい………。
この人が、堅が言ってた場地さん………。)

鋭い瞳に尖った犬歯。


「半間にあんだけやられてんのに泣きもしないなんておもしれぇじゃん。
ドラケンの女じゃねぇなら俺が貰うわ。」
立てよ。
有無を言わせず私を引きずるように立ち上がらせ、その場を去ろうとすると。



「………ダリィ（笑）待てよ♪」
場地さんの肩を半間が掴んで振り向かせようとする。


「そのまま連れてって逃がすの（笑）？」
ニヤニヤと。
気持ち悪い笑いを向けてるのに。
場地さんを掴む手は肩にくい込んでる。



「放せ。」
さっきまで笑っていた場地さんは一気に表情が変わり、掴んでいた腕を振り払うと半間の胸ぐらを掴み引き寄せる。


「コイツがドラケンの女じゃねぇなら俺のモンにしてアイツがどんな顔すっか見てぇんだよ。」
言うだけ言うと。
半間を放してまた私の腕を掴む。


「東卍を潰すのはオレだ。」
それだけ言い捨てて、そのまま歩き出した。


体も顔も痛いけど。
腕を掴む場地さんの力は弱くて。


「んじゃ、明日な。」
無理やり引っ張ってる風に見えてるのに。

唖然とするその場の男達を押しのけて。


私は場地さんに連れられて外に出た。


「…………ほらよ。」
腕を縛っていた粘着テープをちぎると、場地さんは私にヘルメットを渡す。


「逃げようなんて思うなよ？
殺すぞ？」
獲物を見つけた獣のように。

牙のような犬歯を見せてニヤリと笑う場地さん。


このままだったら明日の朝日は見れないと思っていたから。


それならこの人に従ってる方がマシだと思った。


無言のままヘルメットを被り、場地さんがエンジンをかけたバイクの後ろに乗ると。


そのまま場地さんのバイクは暗闇に走り去って行った。




「…………一虎ぁ。場地の自由にさせていいのか（笑）」
ニヤニヤと、タバコに火をつけ一虎を見る。


「…………別に良いよ。あいつには監視付けてるし。明日が楽しみじゃん………。」
一虎は場地の走り去った暗闇に視線を向けていた……………。